第19話 秘密の菜園
今日も砂漠の収容所に監獄長のダミ声が響いている。
部屋にいても聞こえるから厄介だ。
《聞け、クズども! 飛空艇が到着する日だ。今回の荷物には卵や油が入っているそうだ。せいぜい稼いで豆以外のものを食ってみろ。腕は太くなるし、しなびた女の胸も大きくなるってもんだ。栄養を付けたらまたダンジョンへ潜れ! 能無しどもの奮闘を期待する」》
相変わらず監獄長の放送は品性の欠片もない。
でも卵か……。
久しぶりに食べてみたいな。
ジョブに目覚めてからは楽に稼げるようになったから、以前のようにお腹を空かせていることもなくなった。
だけどエルドラハに入ってくる食料品はバリエーションが少な過ぎるのだ。
前世の記憶がある僕としてはどうしても物足りない。
「セラ、遊びに来たよ。はい、お土産のスイカ」
リタが僕の部屋へやってきた。
最近のリタは僕の部屋に入り浸りだ。
「だって、セラの部屋は涼しくて過ごしやすいんだもん」
リタは上着を脱いでさっそくくつろぎだした。
すっかり部屋に馴染んでいるのはいいんだけど、大胆過ぎて目のやり場に困ってしまう。
「アイスロッドが見つかったら、リタの部屋にもエアコンを取り付けてあげるからね」
リタとシドにも作ってあげると約束しているのだ。
「ありがとう。でも、最近はなかなか宝箱が見つからないのよね」
ダンジョンにはときどき宝箱が出現する。
マジックアイテムはそこから見つかることが多い。
リタから手渡されたスイカを受け取ると、それはよく冷えていた。
「知り合いの魔導士に冷やしてもらったの。私は隣のスケベジジイを呼んでくるから、セラはスイカを切っといて」
「了解。こんな感じ?」
『解体』を使えば、ちょっと触れるだけでスイカは好みの形に切ることができる。
とりあえず、スイカの表面がバラの花束のように見えるようにカットしてみせた。
花弁の縁は白く、奥に行けば赤くなるグラデーションが美しい。
これも前世の記憶だ。
どこかのメディアで見たのだろう。
「すごい……」
「あとでもっと食べやすく切るね。これはリタへお礼の花束だよ」
「この天然女殺し……」
「喜んでもらいたいだけだって……」
「そういうところ! とにかくシドを呼んでくる」
リタは顔を赤くして出ていってしまった。
僕もなんだか照れくさい。
今度はクジラの形にカッティングすることにしよう……。
シドを加えて三人でスイカを食べた。
「スイカだなんて豪勢だよな」
シドの言う通りエルドラハでは破格の食べ物だ。
飛空艇は三日に一回くらいしかやってこない。
運ばれる食料も限定されるのだ。
「塩をかけると甘みが増すって聞いたことがあるよ。脱水症を予防してくれる効果もあるんだ」
「げえっ、スイカに塩? ちょっと信じられない」
リタはそう言いながらも、僕が『改造』した塩に手を伸ばす。
シドも興味があるようで振っていた。
「本当だ。たしかに甘みが増すわね。でも、私はそのままの方が好きだな」
「俺は塩をかけるのが気に入った。これは美味い」
好みはそれぞれのようだ。
「僕はもっとスイカが食べたいよ。この種を植えたら育たないかな……」
シドは種ごとスイカを飲みこみながら呆れている。
「エルドラハの砂でスイカが育つのか? だいたい作ってもすぐに盗まれるぞ」
問題はいろいろあるけれどなん何とかなるかもしれない。
「土は僕が『改造』で作ってみるよ。場所はダンジョンの目立たない部屋ならどう?」
「おい、本気か? だけど日光はどうする? 詳しくはないが、植物には太陽の光が必要だろう?」
「それもなん何とかする。これを使ってね」
「魔導ランプ?」
地下ダンジョンに秘密の畑を作るか……。
なんだか面白くなってきたぞ。
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