第15話 氷の鬼女
ダンジョンの入り口までやってくると黒ずくめの集団が地下へと降りていくところだった。
一糸乱れぬ統率された動きで、独特の雰囲気を放っている。
「あれは『黒い刃』だ。今は滅んだグランベル王国の近衛騎士や特殊部隊で編成されたチームだぜ」
事情に通じたシドが教えてくれた。
グランベル王国はエブラダ帝国に滅ぼされてしまった国であり、僕の両親の故郷でもある。
あの中に僕の両親のことを知っている人がいるかな?
そう考えると、なんとなく親近感を覚えた。
「あそこのチームは特別だ。活動場所は地下四階より下って話だし、あまりに強いので監獄長すら気を遣っているって噂だぜ。セラも不用意に近づくんじゃねえぞ。お前は人懐っこ過ぎるから――」
シドの話は続いていたけど、僕は見覚えのあるフードに目をとめた。
黒い刃は全員が黒いフードを被っていたけど、その中で一人だけ金の縁取りがあるフードを被っている人がいる。
あれは昨日会ったメリッサに違いない。
「おーい、メリッサ!」
呼びかけると、フードの人物が驚いたようにこちらを向いた。
やっぱりメリッサだ。
「今からダンジョンなの?」
メリッサはコクコクと頷いている。
若干恥ずかしそうにしているのは気のせいかな?
「気を付けてねー」
大きく手を振って見送ると、メリッサも遠慮がちに手を振り返してくれた。
「な、なんで、黒い刃の首領と知り合いなんだよ……」
「メリッサのこと? ペンダントを直してあげたんだ」
どういうわけかシドが呆れている。
「しっかし驚きだぜ。まさかセラが『氷の鬼女』と知り合いだったとはな」
「氷の鬼女? メリッサはそんな冷たい感じじゃないよ」
笑うとかわいいし……。
「あいつは氷冷魔法の遣い手なんだ。地下四階に現れたオオナメクジを一瞬で凍り付かせたのは有名な話だぞ。チームに手を出してくる奴らには容赦しないことでも知られている。かなり恐ろしい女なんだ」
「ふーん、そんな感じはしなかったけどなあ……」
ペンダントの修理を頼むときだってメリッサは礼儀正しかった。
「さあさっ、そんなことはいいから私たちも出発しようよ!」
リタがフレイムソードの柄を握りながら催促する。
早く使ってみたくて仕方がないようだ。
《聞け、クズども。今週はお前らが待ちかねた酒が入荷される予定だ。欲しければ稼げ!》
監獄長のダミ声がまた響いている。
この放送は奴の趣味のようだ。
デザートホークスは黒い刃の後ろからダンジョンへと突入した。
◇
ダンジョンには幹線道路と呼ばれるよく使われる道がある。
主に地下の深層へ行くための広い道だ。
デザートホークスはわき道に逸れて、人の少ない第六区を目指した。
「前衛は私、シドは援護、スピードとパワーのあるセラが遊撃っていうのがこのチームの基本スタイルになると思うけどどうかな?」
「僕もそれでいいと思う。今日はしっかりと連携を確かめようね」
地下一階には強力な魔物は少ないので、僕らは適度な緊張感を持ってダンジョンを進んだ。
だけど 第六区に入ったあたりで、不意にシドが足を止めた。
「前方の天井にイビルバットが張り付いている。どうする?」
目を凝らしてみると、天井からさかさまに巨大なコウモリが八匹もぶら下がっていた。
まだこちらには気が付いていないようだ。
魔結晶の採取が目的の場合、戦闘はなるべく避けるのが鉄則だ。
ただ、遠回りになり過ぎたり、明らかに勝ち目があったりするとき時は話が別だである。
「迂回するほどの相手じゃないから、このまま進みましょう」
リタの目が
かわいい顔に反してリタは意外と脳筋だ。
これも戦士の特性なのだろうか?
普段ならコンパウンドボウで遠距離攻撃を仕掛けるところだけど、今日は訓練という意味合いが強い。
僕たちは接近戦を意識してそのまま近づいた。
やるのであれば先手必勝はダンジョンの鉄則だ。
リタが掲げたフレイムソードに火が灯り、戦闘開始の
赤い尾を引く剣が一閃すると、イビルバットの羽が両断され、切断面が燃え上がる。
フレイムソードの攻撃力は申し分ないようだ。
『スキャン』発動
対象:イビルバット 全長百六十八㎝ 全幅百五十㎝ ダメージ0%
得意技:??? 弱点:???
戦闘力判定:F
スキャンのレベルが低いので、まだこれくらいの情報しか得られないか。
このスキルも使っていくうちにレベルアップするだろう。
僕も素早く群の側面に回り込み攻撃を開始する。
雷撃のナックルは五十センチ以上も放電するので、不用意に飛び込んできたコウモリはすべて感電してしまう。
地面でのたうつイビルバットにみんなでとどめを刺して戦闘は終了した。
「初めての戦闘にしちゃあ上出来なんじゃないか?」
シドが息を弾ませて感想を述べていた。
「私もいいと思うな。このチームなら地下四階でも活動できるんじゃない?」
「ああ、俺もそう思うぜ。念のためにもう一人くらいはメンバーが欲しい けどな」
ベテランの二人が言うのなら間違いないだろう。
「じゃあ、次回は地下三階で活動してみようか?」
「地下三階へ行くんなら第二区の嘆きの岩へ行こうぜ」
嘆きの岩は風の通り道になっていて、石壁が泣いているように聞こえるからそう呼ばれている。
「なん何であんなところに? 魔結晶だってあんまり採れないでしょう?」
リタの疑問にシドは指を振った。
「知られてはいないが、あそこはリボウル苔が生えているんだ」
リボウル苔は薬の材料になる貴重な植物である。
「最近はポーターばかりやっていたから採りに行けなかったが、久しぶりに行ってみようじゃないか。俺の形見代わりに場所を教えといてやるぜ」
「僕が『修理』したんだから、シドの寿命は十年以上延びているはずさ。形見分けだなんて気が早過ぎるよ」
「そうかい。だったらリボウル苔でたんまり儲けてパーティーナイトとしゃれこもうぜ」
次の目標も定まって、みんなのやる気も最高潮に達している。
僕らは魔結晶を探しながら六区の奥地へと進んだ。
「きゃあああああっ!」
突如、ダンジョンの通路に叫び声が響き渡った。
といっても、ここではそう珍しいことじゃない。
採取に入った人々を魔物が襲っただけのことだ。
「カネオン、しっかりして! 死んじゃ駄目よっ!」
かなり危機的な状況のようだ。
日常茶飯事の出来事とは言え見捨てる気にもなれない。
よ良き行いにはよ良き報いがあるとシステムさんは言った。
たとえそうじゃなくたって、目の前で困っている人は助けたい。
それはシドとリタも同じ気持ちのようだ。
うん、やっぱりデザートホークスはいいチームだ。
僕たちは目配せをして同時に走り出していた。
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