第9話 強敵を相手に
安全な小部屋にリタを運ぶと、僕は通路から荷物を回収した。
死んだ人たちが持っていた装備や道具、採取した魔結晶を残していくのはもったいない。
これまでの僕なら十キロの荷物でも辛かったけど、今なら百キロ背負っても余裕な気がする。
持てるだけ持っていくつもりだった。
「ただいま。荷物を回収してきたよ。食料もあったから、出発前に腹ごしらえをしておこうね」
「ごめん。おかげで私の体もすっかりよ良くなったわ。料理は私がやるからセラは少し休んでいて」
「それなら僕は装備を修理するよ」
リタの鎧はボロボロだったし、剣も刃こぼれしているようだ。
「そんなこともできるの?」
「うん、『修理』ってスキルは基本的になんでもなおせるんだ」
「治癒師であり、魔導具師みたいな感じかな?」
「今はまだ一種類しか使えないけど、数をこなせば新しいスキルも発現するんだって。だから、なおして欲しほしいものがあったら遠慮しないでどんどん言ってね」
「じゃあ、とりあえずこの服をなん何とかしてもらえるかな?」
リタは頬を赤らめながらお願いしてきた。
それもそのはずで、リタの服は戦闘であちこち破けている。
服の切れ目から大きな胸の谷間やおへそまで覗いているくらいだ。
「う、うん。すぐにやるね」
魔力を送り込むと、ほつれた糸が生き物のようにうねうねと動き出して、互いにくっつきあった。
血や汚れなども同時に取り払って綺麗にしていく。
「すごい……」
「後で剣や鎧も直すからね。剣の切れ味もよみがえるはずだから期待して」
僕が装備を修繕して、リタは料理を作ってくれた。
メニューは焼き直したパンと干し肉の入ったスープ。
干し肉と言ってもエルドラハでは貴重品である。
意外と言ったら失礼かもしれないけど、リタの作ったご飯は美味しかった。
「このスープ、すごく美味しい!」
「これでも料理は得意なの。遠慮しないでたくさん食べてね」
「えへへ、美味しくて幸せだな」
「も、もう、余計なことを言ってないで早く食べなさい!」
誰もが恐れるダンジョン地下四階だというのに、なんだかほっこりとした空気が満ちていた。
扉から通路を覗いてみても魔物の影はなかった。
僕らは用心しながら表へと出る。
当面の目標は地下三階へ通じる階段にたどり着くことだ。
上へ行けば行くほど生き残れる確率は高くなる。
一刻も早くこのエリアを脱出する必要があった。
僕は拾った盾を構えて後ろにいるリタに声をかけた。
「行くよ、しっかりついてきてね」
「うん……」
重力の呪いが解けて、僕のパワーが増しているということは説明したのだけど、リタはまだ不安そうだった。
でも、今の僕なら大抵の攻撃は受け止められると思うんだよ。
信じられないくらいの力が体の奥底から溢れてくる感じなのだ。
戦闘はまだ慣れないけれど、防御に徹すれば大抵の攻撃は
だから僕がタンク役で敵をひきつけ、リタがその隙に攻撃をするという戦闘スタイルを採用した。
通路の先がT字路になっているところまでやってきた。
ナビゲーションをしているリタがそっと
「次を右よ」
「了解」
出会いがしらの戦闘に備えて強く盾を握りしめて角を曲がる。
すると、そこには巨大なモンスターがいた。
「オークキング!?」
背後からリタの驚愕した声が響く。
僕だってわかっている、こいつは地下四階最強の魔物だ。
緑の皮膚をした豚顔の魔物で、筋骨隆々の体長は三メートルを超えている。
手に
「セラ、逃げて!」
そう言われてももう遅い。
オークキングはすでに攻撃態勢に入っているのだ。
振り上げた位置からの一撃を食らえば、人間の骨なんて粉々に砕けてしまうだろう。
恐れるな!
僕は自分を叱咤して盾を上に向ける。
それと同時にオークキングのこん棒がうなりを上げて迫ってきた。
まともに受ければ盾が壊れてしまうにちがいない。
関節を柔らかく保ちながら敵の攻撃を右側に受け流す。
まさか防御されるとはオークキングも考えていなかったのだろう。
力任せの攻撃がいなされ、奴は体勢を崩して床に激突した。
「リタ、今だ!」
「うん!!」
無防備にさらけ出した首の急所をめがけ、リタの長剣が一閃する。
素早いヒットアンドアウェイで距離をとったけど、血を流して倒れるオークキングが起き上がってくることはなかった。
「信じられない……オークキングをたった二人で討ち取ってしまうなんて……」
「運がよかったよね。敵が単体じゃなかったら危なかったと思うけど」
さすがにアレが二体以上いたら荷が重いかな。
それともスピードで
なんとなくだけど、なん何とかなりそうな気もする。
今の僕なら余裕かもしれない……
自信過剰と思われるのも嫌なのでリタには黙っておいた。
しばらく歩いた僕らの目の前に、上りの階段が現れた。
まるで楽園に通じる希望の階段に見えてしまう。
「リタ、階段があるよ!」
「着いた……。着いたのね!」
地下四階に生息する魔物は、滅多なことでは階段を上がってこないと言われている。
これで僕たちの生存率もグッと上がるというものだ。
僕とリタは頷きあって、一気に階段を駆け登った。
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