第5話 無謀な選択
チームは順調に地下道を進んだ。
途中で何体か魔物が襲ってきたけど、死者を出さずに撃退している。
特にリタは強くて、戦士の名にふさわしい力強い技を連発してチームを守っていた。
下段から振り上げる剣の冴え、華麗な足さばき、困難な状況にも対処できる即応力、どれをとっても群を抜いている。
戦闘中だというのに、その一挙手一投足に見とれてしまったほどだ。
僕は戦闘ではいいとこなしだったけど、他のことで役に立つことができた。
暗闇の中で砂に埋もれかけた
赤晶というのは火炎属性の魔結晶で、純粋なエネルギー源として使われたり、攻撃的な魔導具に利用されたりもする。
「ウスノロにしてはよくやった。褒めてやるぜ」
見つけた赤晶の量が多かったからピルモアでさえ上機嫌だった。
昼ご飯の煮豆の量がいつもより少しだけ多かったくらいだ。
でも、ちょっとばかり上手くいき過ぎているような気もしていた。
みんながソワソワと落ち着かない気分でいたと思う。
魔物をうまくやっつけて、予想以上の魔結晶も手に入れた。
ここで帰れば僕たちの探索は大成功だったはずだ。
だけど、すべてが順調だったせいでピルモアたちに欲が出た。
「よし、このまま地下四階へ向かうぞ」
ピルモアの決定に、ポーターたちの間に動揺が走った。
ダンジョンは地下へ行くほど良質な魔結晶がたくさん採れる。
だけど深部へ行けば行くほど、出現する魔物も強力になるのだ。
僕はただのポーターだけど、七歳のときからダンジョンで働いているからよくわかる。
このチームで地下四階へ行くなんて、魔物の餌になりに行くようなものだ。
「無理だよ、ピルモア。人数が少な過ぎる」
思わず反対の声を上げてしまった僕をピルモアは無言で殴りつけてきた。
容赦のない一撃に僕の小さな体は吹っ飛んでしまう。
「弱い奴はこれだから嫌になる。お前が役立たずのウスノロでも俺たちは違う。ちゃんと魔物を撃退できるんだ! ポーターのくせにつべこべ言うな」
チームの固定メンバーはピルモアの言葉に納得しているようで、よく考えもせずにウンウンと頷いている。
そろいもそろって現実を認識できない奴らが集まったものだ。
だけどリタが反対意見を言った。
「私はいやだよ。セラの言う通りさ。今の戦力で太刀打ちできるほど地下四階の魔物は甘くない」
「なんだ、リタまでビビっているのか? 安心しろ、お前のことは俺が守ってやるからよ」
すかさず周囲の男たちが
「ヒューヒュー! ピルモアがサラッと告白してるぜ!」
「俺たちの実力だって上がってきているんだ。地下四階だって怖くない」
「そうさ、これだけのメンバーがそろっていれば問題ないぞ」
僕に言わせれば問題だらけだ。
地下四階に行くには準備と経験が必要である。
僕も強力なチームのポーターとして数回潜ったことがあるけど、魔物の強さが段違いなのだ。
ピルモア程度がリーダーでは全滅の恐れだってある。
リタもそのことはよくわかっているようだ。
「アンタと心中なんて絶対いやだからね。このまま地下三階を探索すべきだと思う」
「強情な女だぜ……。だったら一人で戻れよ。他の奴らも同じだぜ。帰りたければ勝手に帰れ!」
そう言われてしまうと、リタも僕もなに何も言い返せなかった。
いくらリタが強くたって、一人で地上に戻れるほどダンジョンは甘くない。
ましてや、ジョブもスキルもない僕には無理な話なのだ。
ぬぐい切れない不安はあったけど、僕もリタも地下四階への階段を下りるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます