第4話 リタ


 ピルモアのチームは総勢二十四人だった。

いつも同じメンバーというわけではなく、助っ人やポーターなんかはそのつど雇っている。

ピルモアは強いけど人望がないから、固定メンバーになる人は少ないのだろう。


 僕だってわざわざピルモアのチームに入りたいなんて思わない。

あんな嫌な奴と付き合うのは、仕事じゃなければ絶対にごめんだ。

それこそブラック企業に勤めるようなものだと思う。


「あなた、セラとかいったわね。ひどい顔色をしているけど大丈夫?」


 戦士のお姉さんが僕を気遣ってくれた。

この人はたしかリタと呼ばれていたな。

赤髪の元気な人で、戦闘力もかなり高い。

ピルモアの仲間というわけではなく、臨時の助っ人としてこのチームに参加している。

こうやってポーターの僕を気遣ってくれるくらいだから優しい人なのだろう。

生き生きとよく動く黒い瞳が印象的だった。


「うん、少し体が重いだけだから……」


 本当は歩くのも辛いくらいだけどやせ我慢だ。

ステキな女の人の前ではカッコつけたい思春期の僕である。


「そう? ほら、水を飲んで。少しは体調がマシになるから」


 リタは自分の水筒を僕に渡してくれた。

辛いときだからこそ、人の優しさが身に染みる。

惚れてしまいそうだ。

リタの言う通り、ちょっと水を飲んだだけで少し体が楽になった気がした。


「ありがとう。なんだか力が出てきたよ」

「それはよかった わ」


 笑顔がかわいい。

癒されるなあ……。


「リタは優しいんだね」

「ま、まあこれくらいは……」


 リタは顔を赤らめ、そっぽを向いてしまった。

照れ屋さんでもあるらしい。


「おいおい、なに何をさぼっていやがる!」


 せっかくいい感じだったのに、やってきたのはチームリーダーのピルモアだ。

いかつい体を左右に揺らしながら周囲を威嚇いかくして歩いている。

動物や魔物の示威行動みたいだ。

そうやって自分を大きく見せようとしているのだろう。


「こら、セラ。役立たずがなに何を突っ立っている!?」

「やめろ、ピルモア。私が水を飲ませていただけなんだから」


 僕を殴ろうとするピルモアをリタが止めに入ってくれた。

ピルモアという奴は周囲に威張り散らすことがカッコいいことだと感じているようで、いつも弱い者いじめをしている。


「まったく……お前みたいなウスノロは使ってもらえるだけありがたく思えよ。ところでリタ、例の話は考えてくれたか?」

「なんのこと?」

「このチームの常駐メンバーにならないかって話だよ。リタの実力なら申し分ない。俺はチームのナンバーツーにしてやったっていいと思っているんだ。なんなら俺の女にしてやってもいい」


 ピルモアはエッチな目でリタの大きな胸のあたりを見た。

リタは美人だしスタイルも抜群だ。

でもあんなにいやらしい目で見たら嫌われちゃうと思うけどな……。

ほら、露骨な視線にリタが顔をしかめているぞ。


「その話なら前に断ったでしょう。今はどこのチームにも入りたくないし、男も要らないから」

「そう言うなよ。俺の女になれば楽ができるぜ。相手がリタなら結婚だって考えたっていい」


 言いながら、ピルモアはリタの腰に手を伸ばす。

ここは収容所だけど、基本的になに何もかもが自由だ。

囚人が結婚だってできるのがエルドラハという場所である。

だけど、リタはピルモアの伸ばした手をピシャリと払った。


「悪いけど、危険な地下ダンジョンで女を口説くような奴に興味はないわ。油断していると死ぬよ」

「おい、俺は本気なんだぜ。少しは真面目に考えてくれ」

「アンタがこの子くらい礼儀正しかったら考えるくらいはするんだけどね」


 リタは僕の頭に手を置いた。


「チッ、後悔しても知らないからなっ!」


 リタに冷たくあしらわれて、ピルモアは舌打ちしながら去っていった。


「後悔なんてするもんか、最低男が……」


 吐き出すようにリタはつぶやく。

リタもピルモアが嫌いなようだ。


「ところで、リタ」

「ん、どうしたの?」

「僕が付き合ってって頼んだら了承してくれるの?」

「へっ?」


 しばらく時間がかかったけど、リタはやっと僕の言った言葉の意味を理解したようだ。

急にワタワタしだしたぞ。


「な、何を言ってるの。あれは言葉のあやみたいなもので……。それに、セラはずっと年下なのに……」


 精神的にはそんなに変わらないと思うけどな。

リタの方が少し年上くらいだろうか?


「冗談だよ。でも、かばってくれてありがとう。おかげで頑張れそうだ」

「そ、そう? だったら……よかった……」


 リタはかなり純情な一面を持っているようだ。

とはいえ十三歳の少年と付き合うとかはないだろうな。

地球で言ったら、女子高生か女子大生が男子中学生と付き合うようなもんだもんね。

まったくあり得ないことじゃないだろうけど……。

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