狐の婿入4
夜も明けて、朝日が登り今日も無事に出勤する。
昨日出勤1回目だったけれど、その分……と現すのが正解なのか…少し色の濃かった1日だった。まさか出勤一日目にして外での勤務を言い渡されるとは思わなかった
なんだったらカミさんからは事前に初めの頃はオフィスでの事務仕事が多いって説明されていたから。
昨日の夜の寝る時にカミさんがボソリと「課長に問い詰めないと…」ってめちゃくちゃ低い声でつぶやいてたことなんて知らない、何も聞いてない、と信じたい。
今日の朝ルンルンで糸鋸を押し入れから取り出して荷物の中に閉まってたなんて見てない、知らない。
自身のデスクに鞄を置いて、作業に必要なペンやら何やらを出す
昨日は殆ど外での仕事だったから、今日こそ中での作業を覚えなきゃいけない
魂迎課は死神族不在の為か生者人数の割に人員不足で100人未満の中、生者の動向監視や規定された寿命間に事故で命を落としかけないかとかも見張らなければならないらしい。
一応西欧局っていう地球の西側……主にヨーロッパやアフリカ大陸だとかを管理している所にも魂迎課は設置されているらしいが
東欧局の日本管轄内は島国だからこその人員不足。
比較的平和で基本的な生まれてから死んで、輪廻転生までの一連の流れがしっかりと守られている、がそれが仇となったのか生者の割に死者が少なく、その為魂迎課の者たちは一人につき数人持っていたり
偶に他の課にも力を貸してもらっているようで……
派遣会社からの派遣員も居るらしいがそれでも矢張り人手不足、猫どころか虫の手も借りたいらしい。
そのせいなのか
「……私の隣と後ろ、誰か居るんですか?」
「え?」
「いえ……その、私物が置いてあるけど暫く使われてない感が凄いので…」
私のスペースの隣と後ろにあるやけにデカい椅子とデスク、机の上にはファイルやパソコンやコップとか書類私物……諸々置かれてあるが生活感というか使用感が無い
いやだってあからさまにホコリ被ってる。
それどころか、だけれど本当は私の隣と後ろだけじゃない
このフロア全体が静かで他の社員さん達がいないんだ、机と椅子だけあってそこには誰も何も座っていない
「……おや、まだ彼ら帰ってきてなかったんですか?」
「ん?あぁそう言えば遅いねぇ〜あの二人、出張何日だったっけ」
「確か二週間だったはずですが……珍しいですね、彼等が遅れてるだなんて」
「?」
一人、私だけなにも状況を把握出来てない、と言うよりもするだけの材料が足りない
出張でかなり予定よりかなり帰還が遅れているのはわかるけれど…
「三上君より前に入ってきたベテラン女の子と文君より少し前位に入ってきたコンビでさ、二週間の出張を頼んでたんだよ
仕事が早いからそれより早く帰ってくると思ってたんだけど…」
「うおっ」
「!?」
いつから話を聞いていたのか、ニュッとジュン先輩とカミさんの間から顔を出した課長
それに驚いてジュン先輩は勢いよく椅子から転げ落ちて、カミさんは何か巨大な鎌取り出して課長に向けてる。
その鎌何処から出したんだろうカミさん、というか上司に向けていいものじゃない
いくら驚いて咄嗟とはいえ、危ない、色々と。
「なぁんかデバイスの通信も繋がらないんだよね、あの二人だから大丈夫だとは思うけど……
早く二人や他の社員達と文君を顔合わせさせて歓迎会開こうと思ってたのに
せっかく僕お手製の主役タスキ用意したのになー」
「うっわ課長何それ、美的センス本当独特やな…」
首に当てられた鎌をそっと指で退けて、これまた課長もどこから出したのか妙にダサ…個性的な主役タスキを取り出して悲しそうな顔をする。
気持ちは有難いけど、至極遠慮したい所存。
「それに今ただでさえ君達以外は出払ってるってのにこれ以上案件が増えてくると流石に僕でも対処しきれないからねぇ…
三上くぅ〜ん」
「男割りします」
「男割り」
「あっ間違えた、お断りします」
「ちょっと僕まだ何も言ってないんだけど?頼む前から断るって何?しかも上司からの頼みを」
「話の流れで分かりますよぉ、絶対に嫌です」
課長がニマリと笑みを浮かべてジュン先輩の方を見た瞬間、ジュン先輩は一刀両断
出待ちよろしくな速度で断った
「だってあの二人が今行ってるの横浜じゃないですかぁ…嫌ですよあんな人混みん中一人で歩くの
それにアソコ面倒くさい奴とかもいるし、ぜぇぇったい嫌でーす!」
「めっちゃ拒否んじゃん……え?じゃあア」
「私と文さんはまだ作業が終わってないものがあるので無理です、ね?文さん」
「え?…あ、えと……」
「えぇー?じゃあ良いよ、三上君と文君に行ってもらうから君は作業進めてて」
「「え!?」」
「!やったぁ〜それなら喜んで行きます!一人じゃないなら怖くない!!」
「ちょっっちょっと待…待って下さい!?」
「良し決定だね、じゃあ二人とも今から用意してね!」
「はーい!」
「え?」
「だからちょっと待ってって!!?」
カミさんの焦りようと言ったら
そんな慌てふためくカミさんを無視しているのか、それとも本当に気付いてないのか尽くスルーしているお二人に私も呆気に取られて出遅れる。
あれ?なんか巻き込まれてる?
私の意見聞いてくれたのカミさんだけじゃね?何気に、勝手に決定されてるし
アレ??
「別に私忙しくないですから!文さんの面倒は私以外見れないんですから!!駄目です、絶ぇぇっ対駄目です!」
「文君そんな問題児だったっけ?」
「良いから!三上君も昨日まで普通に一人で顕界行っていただろう!?何をカマトトぶってるんだ……!」
「カマトトぶってないもん!事実だもん!」
「文さんは!?文さんは行きたくないよね?私以外の奴なんかと」
「はい、今のところはカミさんと一緒に行動した方が良いのでは……?」
「まぁ番外的な、ね??」
「仕事に番外もクソも何も無いんですけど、それに文さんはデスクワークがまだ未熟ですから慣れるまで外行動はやめた方が良いのでは?」
「行動した方が覚えやすいでしょ???」
「駄目だもう……あーーもう、分かりましたよ!分かりました、行けばいいんでしょう?行けば
すいません文さん、何度も業務を中断させてしまう形になって……全責任は課長が負うそうなので安心して私達は行きましょう?」
「えっちょえ??待って聞いてない??」
「ちぇーっせっかく文ちゃんと一緒にお仕事行けると思ったのに」
イスから立ち上がらされて、肩に手を置かれてそのままソフトタッチに優しく押されてエレベーターの方に向かう。
今サラリとカミさん課長に責任転換した…カミさんそういうところある。
「ついでに花壱殿から頼まれた物も一緒に出来るだけ済ませちゃいましょうか」
「!はい」
「という訳なので私達は二人を帰したら、そのまま別の所に行きますんで、しばらく留守にします
僕と文さんの分の書類、責任持って頼みますね?課長」
「………はい」
課長負けた…!!
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