第4話 狐の婿入





その店は居酒屋と言うには内装が綺麗で

照明や窓のデザイン、机や椅子の装飾まで凝ったアンティークなお店。



木材に似た何かの天井を見れば厨房から漏れ出る熱と湯気を吸い込んで所々黒焦げいる


相当年季の入ったお店だということはその焦げ模様が物語っている為、あえて何も言わない。




やんのやんのワイワイと祭りでも無いのに盛り上がり笑い声やツッコミの声、隠し芸の催促の声やアンコールの声が机と席を仕切る壁の向こう側から聞こえてくる



宴でも開いてるのかと思い違いをしてしまう程の騒がしさだ




どこか店内の雰囲気とは相容れなくてどうにも背中がむず痒く、少し居心地が悪い。






自然と腕を抱いて肩を竦めてしまうのはもう生理現象だと思う、どうかバレないように…








「いらっしゃあせー!!って花のあんちゃん!!今日は連れも一緒に晩酌かい?」




「んもぅ!ぼくはですよ?ばんしゃくなんかしませんよ〜


きょうはぼくのおごりで新人さんとおしょくじするんです!!」









店の奥から顔を出したのは白いタオルを頭に巻いた良くあるガッツありそうな店員さん



モッサリ、という例えが合う印象だ。




というか目代様……流石にさっきのあの説明を聞いた後だと何とも言えない、苦笑いしか出なかった








「新人?……あー後ろの黒セーラーのお嬢ちゃんね!偉い別嬪さんやんけ、よううちん所連れてこようって思えたなぁ…」





「まぁここそれなりにボロいですからねぇ



てなわけでおくの席空いてます?せっかくだからここからのけしきを見させてあげたいんです!」




「おぉおぉ勿論、丁度今さっきその席のお客さん帰ってバッシングし終えたばっかりだからな!」








顔をしわくちゃにして豪快に笑う店員さんの言葉に、目代様はその場で飛び跳ねてグイグイと私の腕を引いては奥の方に入っていく



カミさんはそんな目代様と私の後をマイペースに歩いてきてる。







「うぅ……自分が不甲斐ないからなんか…?酷い、酷過ぎる…泣きたい」




「いや既にもう泣いとる」




「一体何が駄目やったん……自分が頼りなかった…?」




「まぁまぁ…元気出せって狐丸屋!」











奥へ続く廊下を歩いていると、楽しいだけじゃなく何やら悔やんでいる声も聞こえてくる








振られ話だろうか、あまり気にしないであげた方が良さそう。









奥の席に着くと半ば強制的に目代様の隣に座らされて、カミさんは何とも言えないオーラを出しながら私の目の前に座った



目代様、何だかとても活き活きしてる。






頭上から微かに聞こえてくる大正浪漫を彷彿させるようなタンゴの曲で自然と足がリズムを踏みそうになる


店の内装とよく合っていて尚更心踊りそう。



このお店好きかもしれない








それからはメニュー表を決めてそれぞれ食べたいものを各々注文、暫く色んな事を話し合っていると美味しそうな匂いと共にご飯が運ばれてきた



無人トレーに乗せられて






え、良いの?それ良いの?ここあの世とかじゃなくて普通に顕界だよ?いやまぁ最新技術って言えばワンチャン誤魔化せるかもだけどさ



というかこのお店、よくよく見ればカウンター席とかに堂々と居なかった?





人間、それも生者






えっ大丈夫なの?











「おいしそうなハンバーグ!!よかったねぇあやちゃん!店長がとびきりの部位をつかってくれたんだって!」




「!……そ、そうなんですか…何だか申し訳ないですね…美味しそう」




「んーん、あやちゃんが申し訳なく思うことはないよ?ここはぼくと梅様がよく来るから、おとくいさまってやつね!


だからだいじょーぶ!」









ジュワァァッと耳にこびりつく熱せられた鉄板にステーキが焼かれる音と、食欲を促進させるこんがりと焼けた香ばしい匂いで、さっきまで考えていたことを放置する。



鉄板プレート上にのせられたステーキとコーンとグリーンピース、ステーキ用のソースとじゃがいもやブロッコリーがとても美味しそう。




カミさんには鯖の味噌煮定食、目代様にはコンポタセット付きナポリタンが運ばれる










ナイフ片手、フォーク片手に持っていよいよ食事。






三人で手を合わせていただきますと言い、早速お肉をナイフで切りフォークで口まで持っていく。




勿論息を何度か吹いて冷ますのも忘れずに










「あっふぉーふぁ!あやひゃん、しふぉとならふぃでひちょつおひぇふぁいしたいこほふぁあるんひぁへろ」




「ちょっ花壱殿お行儀!文さんが真似したらどうするんですか!文さんに限ってそんな事しないのは分かってますけど」





「ゴクンッ……ごめんごめん、忘れないうちにっておもって



あやちゃん、しごとならしで一つしたいことがあるんだけど」




「ゴクン……ん、私に…ですか?」




「うん!上の人にはぼくから言っておくから、自分のタイミングでいいんだけど



えっとね、ちょっと待ってねー……」








頬に着いたナポリタンのソースはそのままにフォークとスプーンを一旦置くと、目代様は何やらポケットを漁り始めた。




私に頼み事……会って間もない上に課長に言うあたりこれも仕事の一貫ってことだろうし


というか仕事慣らしって言ってたし



なんだろう……?






まだ不慣れだし、と言うより出勤初日だから慣れ不慣れ所じゃないのは明白だ


なるべく重要じゃない事なら良いんだけど……私なんかが出来るのだろうか?目代様が望む結果を出さなければ…



私なんかに目代様の喜ぶ結果を作ることは出来るのだろうか?








「あぁあったあった!はいコレ、このかみをここに書かれてあるばしょにいる人に見せてくれないかな?



そしたら品をそろえて出してくれるからそれを受けとってぼく、もしくは梅様の元まで届けてきてほしいの!!」










そう言われて渡されたメモ書きの紙をカミさんにも見えるように机の上に置いて内容を確認する。




















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●●県●市●●町‪✕‬‪✕‬-‪✕‬-‪✕‬‪✕‬


朧灯おぼろび屋 店主 カヤ


リスト

・鴆毛

・犀角

・月餅

・月餅石

・日烏の水

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「……鴆毛?月餅石?」



「だいじょぶ、これ見せればちゃんとこれとおりのが出てくるから



それ受けとってぼくたちのところまで持ってくるだけ!カンタンだよ!」





「簡単、なんですかねぇ……」




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