第3話 罪な守係

息も絶え絶え、というか肩で息する力すら出ない程バテながらも階段を何とかカミさんのお陰で登りきると



そこには私達が普段よく知る鷲尾愛宕神社では無く……



















「何だ、今来たのか……遅いな」







そこら中に苔や蔦、緑が生い茂り伸び伸びと自然を拡げ境内を包み込み外界から隠す様に木陰で埋める木々達



神社とは言えない荒廃しかけたような光景が広がっていた




だが当たりを見れば薄く、半透明のように人間が境内をあちこち歩いていてお守りを買う者や御籤を引く者、参拝する者



この惨状を気にせず日常を過ごす姿がそこにある。




だが半透明だ、それがおかしい



いやだが神域だと先程カミさんが言ってくれていたから、恐らく私達がいるこの境内とそのほかの人間が歩く境内は同じでいて次元が違うのだろう








その中層には何故か横たわり既にボロボロの人型の何かと、それを平気で踏み付け悠々自適に上に座り私達を見据える童が一人




その服装が神主が切るような狩衣だが白色を基本としたものだ






あ……もしかしてこの人が…











「突然呼び出し済まぬな、規律違反者が居たものでこやつを其方らに回収してもらいたかったのだ


直前に儂が帰ってきたから良かったものの…狛犬共がお陰で怪我してしまい大惨事じゃ




主らの上官に内容を話しておったのじゃが…その表情から察するに何も聞かされておらんようだな?」







「「はい、何も聞いてません」」





「はぁぁーー……まぁ仕方あるまい、彼奴は昔からそーゆう所があるけんが今回は許してやろう」










未だに何方か存じ上げない、恐らく先程この方が言ったであろう者の上に座りのんびりと上を見上げる彼





恐らくこの人も人間じゃない、いや恐らくなんて言葉を付けなくとも




この人は絶対に、そこらの寿命より遥長く生きてる







そういうプレッシャーというか、雰囲気を感じる












前に一度この人に似た雰囲気を纏った人とあったことがあるから、きっとこの感覚に間違いは無いはず。











「お久しぶりですうめ殿、息災なご様子で何よりです」




「……新人を受け持つほど立派になったんかねぇ?お前さんは、久しぶりじゃのう小僧」









おやまぁカミさんはこの方とお知り合いだったのか






なんてずっと目の前の光景にどこか他人事で眺めていると肩に手を乗せられてカミさんに軽くに出されるように優しく押された。




あっ挨拶しろってことか











「相生 文、です……今日が初出勤の新参者ですが今後はどうぞよろしくお願いします」












「……………ほぅ、成程成程










矢張りこの地の担当になり正解だったなぁ!ワッハハハハハ!!!!!














いやはやこれは実に面白い!!!」








顎に手を当てて品定めするかのように私を見てきていた梅殿と呼ばれていたその人



突然腹を抱えて幼い見た目の割に年月を越えさせたかのような重みと圧のある豪快な笑い声を上げだした。





え、何事?私変顔でもしてた?






訳が分からずカミさんの方を見ても、カミさんも何が起こってるのか分からず私と自然と顔を見合せた






え、ほんとに何事?












「相生、か……初勤務にして外勤を任されるとは中々にじゃのう



どれ、ちと儂に顔を見せとくれな









お主のを見せとくれ」











手招きされて、大人しく……というか、体が自然と前に進み顔に小さなその手を当てられ下へ優しく引っ張られる。




何だろうか、この……うーん、形容し難い






意識とは氷山の一角とは言うけれど、確かに10分の2程しか人間は自覚出来ていないらしいが、これは……分かる




全部の意識を持ってしても、この人に逆らうという…反骨精神や意思、思考を持てない




否、持っては行けないと全身全霊で私のこの考えを否定している





背けないということに気付き、今それについて語っている事すら私の全てはその事実を否定し拒み、彼の存在全てを肯定させようとしている。









これがこの神社の守り係の力……?



でもなんだかそれとは別のような気がしてならない




 












硝子玉のような綺麗でモノを純化し目に捉えてるのかと、そう思えるような綺麗な青白磁色の三白眼の瞳に私が映る




それがどうしようもなく……















どうしようもなく














































「ッ!!!!!梅殿!お戯れが過ぎます!












余計な事をしないで頂きたい、文さんにはもう必要ないんです



やめてください…梅殿……」









突然、柄にも無いような大声を上げて取り乱したカミさんに掴まれていた顔を離されて腕の中に引っ張られた




声が震えて消えては張っての繰り返し……







必要?余計な事…?


























「……すまんな…守り係の性というものじゃ



文よ、不快な思いをさせたな…すまない」





「え?あ……いえ、私は別に」






「詫びと言ってはなんだがこの練り切りをやろう、甘い物は好きであろう?



何、儂へのお供え物だからどうしようが儂の勝手じゃ、気にせず食べるが良いよ」







そう言って、訳が分からないままカミさんの腕の中から梅?さんから練り切りの入った小箱を受け取る



梅の練り切りだ……可愛い
















「ありがとうございます…えと」














「梅、雪大ゆきのおお梅人うめひとじゃ



気軽に梅とでもと呼んでくれ」




























彼の名前を聞いてからの第二印象は













冬の人とか……萬葉集、かな





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