第2話 初の出勤

 


「きょ、今日からこの魂迎こんごう課で勤務することになりました!相生文です


よろしくお願いします…!」




「君が…良く来てくれたね、話は聞いている

まだ17という若い歳で身投げ自尽だなんて苦労しただろう


取り敢えず君の…あー、相ぉッ文君の世話係は君担当の彼に頼んであるから安心しなさい


文君のデスクは彼の前だからね」




「は、はい!」



 

「文さん!コッチですよ〜」



 


 

課長に挨拶を済ませ、ゆっくりと和やかに手を振り私に声をかけるに向かって課長に背中を押されながら向かう。



課長の言う通りカミさんのデスクの目の前のスペースは綺麗に整理されて、如何にも最近掃除しましたよ感が凄いデスクがある




ここが私の作業場……


 

 



「これから一緒に頑張りましょうね、文さん!」



「はっはい、カミさん!」



 

「という事なのでもう自分の場所に戻って大丈夫ですよ、課長」



「え!?何で!僕課長だし僕だって新人の文君を可愛がりた…」



「文さんは人見知り激しいんです!

課長みたいなおじさん怖がりますから暫く職場に慣れるまで近寄らないでください!」






この間までの落ち着いていて紳士的でお茶目さのおの字すら感じさせないようなカミさんは何処へやら。


此処に残ると、何故か私の背中に隠れながらブーブー文句を垂れる課長相手のカミさんは何処か子供らしくて……その、なんと言うか


とても可愛らしい…?





 

私の体を引っ張って課長を剥がして無理やり追い返すカミさんについそう思いつつも苦笑いをする。


微笑ましいというか、賑やかというか



 

結局カミさんに何か耳打ちされた課長は顔を青くさせ『このひとでなし!!』と泣き叫びながら自身の作業場に戻って行きました。



いったい何言われたんでしょう?顔が凄い真っ青…コバルトヤドクガエルといい勝負だ




 

 


 

「全く!あぁ見苦しい所見せてすみません、文さん」



「いえ…あの、課長泣いてましたが良いんですか?」



「良いんです、課長はすぐ調子乗るいい歳した年増馬鹿ですから」



「年増馬鹿」



「文さんも今は無理かと思いますが慣れてきたら今みたいな感じであしらってくれて大丈夫ですからね」



 


 


何故だろうか



仮面越しだというのに今カミさんが有無を言わせないような笑顔を浮かべてるのが容易にわかる…分かりたくないけど



分かりたくないけど、スッゴイ分かる、雰囲気がそう言ってある。




 

というかカミさん凄い辛辣、こっちが素なのかな?私に対しては常に敬語だし



 


 

「……さて、これで漸く仕事の説明が出来ますね!では文さんは椅子に座って下さい、今から説明していきます」



「はい」



 


 

引かれた椅子に甘んじて座り、背後からカミさんが覗き込む形で私のデスクに手を着いて必要な資料やパソコンの画面を用意していく



どれも矢張り手際が良くてどれだけカミさんが今まで真面目にやってきたが目に見えて分かる。こんな人が私の担当だなんて……勿体無い気持ちと申し訳なさが…



うん、心臓にダイレクトアタックだわ…



 


 

「まず基礎ですが、基本文さんは何もしなくてもいいです」



 


 


「……???」



 


 

 


「何もしなくてもいいです」



「??!?!」






何も!?



二回もそんな声を弾ませて言われても…え?


どういう事!?あれ、私ここに働きに来たんだよね?どゆこと?



 

私の考えてる事が顔に出てしまっていたのか、私の顔を一度見たカミさんはクスリと小さく笑った。


いや笑うよりまず説明して欲しいんですが




 


「ふふふっ…文さんのパソコンは私のパソコンと連携されていますから先ずは私が操作するので、その画面の流れを覚えて下さい


一週間後貴女には一人で操作全てをしてもらうことになりますからそれなりに大変ですが…



貴女なら出来ますね、文さん」




 


 


また頭に手を置かれて前後にゆっくりと撫でられる、カミさんは本当に私の頭を撫でるのが好きなようだ。



一週間後…七日後、という事だよね?普通に考えて


うん、それならいけると思う



 


 

「出来ます」



「宜しい、では次は指名リストとデータとの照合方法です


これは文さんにとったら簡単ですよ、確か貴女は速読が出来ましたよね?」



「はい」



「ならそれで良いので自動で画面は流れれるように設定出来ますから先に指名リストに目を通し暗記、その後画面で照らし合わせます




あとはー……



 


あー………三上君、何か文さん向きな仕事無い?もしあるならそれをこっちに回して欲しいんだが」


 



 


私の斜め前のデスク


まぁ言わばカミさんの隣なのだが、そこに座っていた一見すればただの黒色短髪の美男子に見える少し何処かに違和感のある男性がヒョコリと上から顔を出した。



閉じられた目から一瞬だけ見えた細い瞳孔、吊り上がった口角


何より照明で照らされる肌の光の違和感




 

人間、では無い…よね?

 



 



「いやつかまず僕その女の子の事一切聞かされてないんですけど


出来そうな仕事て、知りませんよそんなん」



 


 

ですよね


 


  


 



「あぁ紹介しますね、此奴は三上みかみジュン君です


一応死人からの職業付きになったんである意味文さんの先輩ですね、ないとは思いますが私の不在中は彼に色々聞いて下さい」






「無視ですか、僕先輩のそーゆう所キライです」



「私は好きでも嫌いでも普通でも無いよ」



 



 






なんて今迄聴いてきた中で一番穏やかで爽やか且つ和やかで楽しげな声で言うカミさん



一回、貴方の中で彼はどんな存在なのか問いただしたいと思った。





 


 


 




















































「さっ文さん、取りあえず作業を見て覚えれる事は覚えましょう」



「……あ、はい」



 



 


多分、この時の唖然とした三上さんの表情かおを私は一生忘れられないと思う



いやまぁもう死んでるんで一生も何も無いんですけど



 


 




「ホントそーゆう所ッスよ先輩」



「文さんに向いた仕事がないなら自身の仕事を喋らずさっさと片付けたらどうかな、三上君」



「辛辣にも程がありますよ先輩、僕そろそろ泣いてもいいと思う」

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