金の亡者5
「なら私をあなたと同じ所で働かせてくれませんか?」
「へ!?」
「我儘を言って申し訳ありません、だけど一緒にいるにはそれが一番良くて…その……あの
地獄で身に受ける罰を職で働きで返上したいんです、その方が誰かの為になりますし…今度こそ誰かの役に立ちたい…
あと、あの…その……」
自身の手を握りながら親指を交差させて、次の言葉を紡ごうと口を動かそうとする。
目の前にいる骸骨さんは仮面で顔を隠してる代わりに首を傾げて意味を解さない、と私に主張してくる
それもそうだ、さっきから口をもごもごさせるだけで言いたいことはちっとも言えてない
それを繰り返して早数分、何度も何度も開いては閉じを繰り返す私の口。
今度は言いたいことはちゃんとある、けど今回は口がその言葉を出そうとするのを許さない、音が口から出無くなった
でも大丈夫…今度はパニックにはならない
「…………」
「……っ……〜…ッ!!」
頑張れ、頑張るんだ、大丈夫…私達には時間は無いんだからもう何も急かすことは今この場には何も無い
壁にかかってる沢山のアンティーク調の振り子時計から重く、軽く、とテンポよく刻まれる乾いた音がこの空間に響いている。
そうだ、ただそれだけなんだ
「わ、私も……貴方と…その、一緒に行きたい場所…かんっ考え、たいので…
なるっな、なるべく一緒にいたいな……なんて
だ、駄目でしょうか?」
「…………」
暫くの間、沈黙が私の心にダイレクトアタックを決めてくる
目の前の骸骨さんは仮面で表情が見えないから反応が無いとどんな表情をしているのかよく分からない。否私になんか分かるわけがないんだけれど
だとしてもだ、だとしても流石にあまりにも反応が無さすぎている
………あぁ、矢張り気分を害してしまったことを言ってしまった
私はやっぱり…
私よりもでかく、足がつかないほど立派なアンティーク調の椅子に座っているというのに気分は黒い影に飲み込まれたかのように次第に沈んでいく。
まるで足元から下へ引っ張られている感覚だ
恐ろしい、形容しがたい後悔の念と負の感情が体を蝕む
手足が痺れ変な汗が体を伝う。
心の中で自身を責め立ている中、ふと耳に自然と馴染むような柔らかく優しい音が張り詰めた空気に響いた
「……貴女は本当に一生懸命ですね」
「へ?」
「そうですね、確かに長い時間一緒に居た方が一緒に沢山考えれますし
貴女担当である私からしたら目と手が届く範囲に貴女がいるのは大変安心する状況であり、しあわ…ゴホンッ失礼
それは
一度私の上司に掛け合ってみましょう
言って下さりありがとうございます、文さん」
「はっはい…いえ……!!」
再び手を頭に置かれてそのまま前後に撫でられてしまう。やはり子供扱いされているようで少し不服
だが嫌ではないし顔が沸騰しそうなほど暑くなってはしまうけれど、そんなに不快という訳でもない、振りほどくという思考にすら行き着かない程だ。
「あぁ…そういえば私の職業、何か聞かずに私も了承してしまいましたが……」
「!す、すみません……っ」
「大丈夫ですよ、私が状況を早く求め過ぎたせいですから
そうですね、私の職業を言いましょう
貴女にとっての最終判断はそれからです」
「は、はい」
「私の職業は……───────」
死んだからと言って決して、そう決して私のこれからの未来だとかそんなものの不安を捨てた訳では無い。
この選択は寧ろその未来への不安を拭う為の薬や治療法に近いだろう
私にとって退屈は毒であり、味方であり、終わりの無い恐怖と最後だ。そんな私にとったらこのような機会はまたとないチャンス。
ただ矢張り私は完璧な存在ではないから勿論ミスもするし不向きなのかもしれない
そんな可能性すらこの先にはありうる
それでも私はこの道を決めた。
大丈夫だとか不確定要素が多い今じゃ言えないけれど、しかしそれでも光を持ってもいいと思う
だから私はこの職で光となる行きたい場所は何かを見つけようと思います。
一人じゃ何も判断出来ない私は何かをくれて、私に指示をくれる職が一番だ
骸骨さんが私にくれた蜘蛛の糸、金色に輝く光の始まり。
さながら私は
これからを他者の導きと一筋の救いの糸で自らを省み私自身を変えていくんだ
手を伸ばそう
ゆっくりとでいい、自分の体と意思が共に歩み始めるまで自分のペースで
今の私の時はもう何も無い
大丈夫だ。
何時か手を伸ばし糸を掴もうとする私を許せるように、私は骸骨さんの元で働き光を見つけるんだ。
上を見上げれば暗闇の中から細くも何よりも輝かしく光る糸が私に向かって垂らされる
暗闇の中、糸の光によって薄らとようやく視界に映るようになった伸ばしかけた私の手を、誰かが私の後ろから二度と折れないようにと、二度と離さないようにと
私の手を支えるように手を握り共に糸に向かって手を伸ばしてくれた。
その手は何処か暖かくて、とても泣きそうなほど優しく少し不格好なゴツゴツとした細い手だった
私はこの手を知っている。
けれど思い出すのは今じゃない
「頑張れ、文ちゃん」
「………うん」
暗闇、金色に輝く糸の光に照らされボンヤリと私の形が見えてくる時
耳元でとても懐かしくとても優しい声が聞こえた
これは序章
これは始まり
これより始まるは人間、妖怪、あの世とこの世が交差し複雑怪奇に巡りゆくこの世界の
平和な、平和な、日常譚であり
私の希望を抱く為の話だ
ふふっ、指図め君達からしたら架空だろうがそれは何ら問題では無い
私からしたら、全てが全て
目の前にいる君達も含めて、これを読んでいる人間もすべからく
私にとっての実体験だ。
金の亡者
金色の光を見つけた亡者
金嫌いの亡者
金を求める亡者
なんであれ、全て亡者の実体験。
第1話 金の亡者・終
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