金の亡者2

 


 


「相生さん、相生あいおいあやさん



起きて下さい、次は貴女の番ですよ」





 


今までに一度聞いたことがないようなほど優しく柔らかく低い聞き心地のいい声と、肩に手を置かれ軽く揺さぶられる感覚で目が覚める。



 

赤くなる瞼の奥から明かりが付いてるのがわかり、ゆっくりと目を開けていく



 


 


まずは何かの椅子に座っている自分の下半身と手が見える、しだいに顔をゆっくりあげると目の前には骸骨のお面をした外套を羽織る男性らしき人が私の顔を覗き込んでいた。




この人がさっき私の肩を揺らして起こしてくれた人……人?なのだろうか。



 

背丈はかなりでかい…目測でしかないけど多分2mはあるんじゃないかって言うほどデカい、のに割と線は細めで



雰囲気はのらりくらりしてる




 


 

「起きましたね、良かった……ここが何処で自分が誰なのか…そして自分が置かれてるこの状況、全て分かりますか?」



 

 


バインダーを片手に顔を合わせやすいようにしゃがみ私の顔をまた覗き込んでくる骸骨さん。



角度でバインダーの内側を見ることが出来たけど、どうやら私に関する資料があるらしい


私の顔写真がついた書類が挟まれていた。




 


 


 

私の今の状況……?



 

嗚呼そうだ、そうだった




 


骸骨さんの言葉を心の中で復唱した途端、頭がズキリと痛みだし先程までの私を思い出す



 

屋上……そうだ、私は確かビルの屋上に行って落ちたんだ



否、落としたんだ…自分を



 


 


「……どうやら覚えているようですね」



 

「はい……けど最後誰かがいたような気がするのに思い出せません



これは思い出すべきですか?」



 


 

じわじわと頭を蝕む痛みに耐えながら、記憶の最後にある私に向かって手を必死に伸ばした誰かを思い出そうとする



白いモヤがかかって肝心な顔も、声も思い出せないけど


 


とても必死そうにしていたのは覚えてる。



 



 


 


「いいえ、思い出す思い出さないは自由です


では意識は正常という事で次の工程に入らせてもらいますね?」


 

「工程?」



 



私の返答に満足したのか一度頷き、今度は目の前に置かれている自分用の椅子に座りバインダーを構えた骸骨さん。



よくよく見れば別に骸骨でもなんでもないんだけど、骸骨要素仮面だけだし


いやよくよく見なくても普通は分かるか。


 


 


 

「はい、次は貴方のこれまでの人生を軽く言っていきたいと思います


心の準備は良いですか?」



 

 



夏日でもないと言うのに何処か張り詰めた空気のこの空間


ちらりと改めて周囲に目を配らせると壁中に掛けられた同じアンティークの振り子時計、白と黒のモノクロチェックの一面模様に合わない幾つものステンドグラスの大窓



そんな壁と床が奥まで延々と続いてる


外からの日に当てられてなのか床に色とりどりのステンドグラスが反射していて少し眩しい。



 


「はい」



 

「良い子ですね、ではまず生まれた頃

0歳の相生さんは三人姉妹の末っ子として生まれ、ご両親からその姓を授かりました


それからは貴女はごく平和な日常を過ごしていますね


ただ周りの環境は平和でも日常でもなく、イカれていた……と」



 


 

最後の方になるにつれ次第に声が低くなっていく骸骨さんに思わず肩を狭める。


 

きっかけ一つさえあれば充分



耳を手で抑えても隠しても、脳裏にまで響く嫌な


どうしても思い出したくなくて、今思い出したらせっかく断ち切ったというのに、振り切ったというのにそれすら満足に出来てない現実に戻されてしまう。




嫌だ嫌だ嫌だ、思い出すな、思い出させるな



 


 


 

「相生さん、ごめんなさい……大丈夫ですよ


 



私がついてますから


話は続けて聞けますか?」


 



 


目を力強く瞑って耳を手で抑えて周りの音を遮断しているとふと、両手に骸骨さんの手が当てられて耳から優しく離される



強く抑えすぎたのかジンジンと痛む耳



 


その痛みを和らげるように優しくゆっくり、私にそう告げる骸骨さん。


 


 


「ごめんなさい……聞けます」

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