七、謎のやりとり
ファントム事件。と、名付けられたカーチェイスの後始末は、ある日突然、不可解な結末でもって締めくくられた。以下は愚痴を交わすNYPD職員の会話である。
「はあーっ!? まあた、FBIに捜査権分捕られちゃったの!?」
内勤組らがビジターセンターのオフィスに固まり、珈琲を揺らしながら怒りの声を弾かせていた。
「はい。メアリーから聞いたんですが、いよいよファントム遠隔操作の真相について聴取しようとしたときに……ってことみたいで」
「結局、僕らNYPDは事件で起こった惨状の清掃や、交通規制、市民の抗議に追われて、事件の真相も知らないまま、ただ面倒事を引き受けただけでしたね。トホホ……」
「そうね。FBIが捜査の結果をNYPDに伝えることなんて、ほとんどないものね……」
「そして、手柄も独り占めするっていう」
「クッソ! FBIめ! 俺たちを何だと思って……!」
「ただの雑用係」
「そして奴らは、美味しいところだけ持っていく守銭奴ども」
「まだ犯罪者の方がマシなとこない!?」
なかなか際どいやりとりながらも、彼らはいたって大真面目に口角から泡を飛ばす。
「で、もっと、不可解なのはよ、その捜査権うんぬんで声をかけてきたFBI側ってあれってよ、あの狐野郎だってよ」
「あ、あのサイバー犯罪専門の奴らのか!」
「え、何? じゃあファントムの遠隔操作って、サイバー犯罪の可能性があるってこと?」
「……なんだか、嫌な予感がするわね」
すると、内勤組の中で最も古参でもる黒人の女性警官が、後輩たちの視線を受けつつ、不穏に眉を顰めて呟いた。
「ニア巡査部長、嫌な――、とは?」
「うん、ウェッブからぼんやりと聞いた話なんだけどね」
と、上層部であるはずのウェッブを呼び捨てに、彼女は目を伏せて答えたのだった。
「近年、このアメリカを狙って、結構ヤバいサイバー犯罪が続いているらしいの。CIAとFBIがそいつをお縄につかせようと、それこそ手柄の取り合いに躍起になっているともいうわ。もしかしたら……FBIがこのファントムの遠隔操作もそいつの仕業だと思って、捜査の手を広げてきたのかもしれない……」
やがて、声をぐもらせながらその名を述べた。
「そう。あの――、『トゥルーデの魔女』に……」
〈終〉
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