おい
ツヨシ
第1話
バードウォッチングに行った。
近くの山にだ。
やがて日も暮れかけて、そろそろ帰ろうとしていた時のことだ。
「おい、たけひこ」
と声がした。
すぐ近くで聞こえたのだが、いくら見渡しても周りには誰一人いない。
たけひことか言っていたが、俺の名前はたけひこなどではない。
――なんだ、今の声は。
気になったが、それから声はしない。
気のせいだと思って、俺はそのまま山を降りた。
山に行った翌日、もう寝ようと思っていた時、また声がした。
「おい、ひさし」
昨日山で聞いた声だった。
――ひえっ!
すぐ近くで声がしたが、俺の住んでいるワンルームのマンションには、今は俺しかいない。
外から聞こえたようにも思えず、姿は見えないが、どう考えても声の主はこの部屋にいるのだ。
ちなみに俺の名前はひさしではない。
こいつ、山から俺についてきたのか。
そう思った。
そうとしか考えられない。
そしてその次の日、夜にまた声がした。
「おい、けんいち」
同じ声だ。
やはりこいつは山からついてきたんだ。
でも俺の名前はけんいちではないのだが。
あれから一か月、毎晩姿なき声に毎回違う名前で呼ばれ続けている。
そしてどの名前も俺の名前ではない。
これははたしていつまで続くのか。
それよりも、声が俺の本当の名前を呼んだ時、その時いったい何が起きるというのか。
終
おい ツヨシ @kunkunkonkon
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