第7話 裏方

Side: Rei


 なんでこんなこと。

 胸の内でそうごちてみる。

 表に出せないのであれば意味のないことであるが、そう思わずにはいられなかった。


 部活見学も終わり、帰宅の途についた折に携帯電話の着信が鳴った。支部からの連絡。すぐに応答する。

「はい、氷室です」

「支部の速水です。例の人外の件ですが、捕らえることに成功しました。警戒レベルはBからCに移行。引き続き対象の監視を続行せよとの命令です。詳細については支部にてご確認ください」

 どうやら変質者が捕まったらしい。支部が捕らえたということはやはり人外だったようだ。

 詳細の確認のため支部に向かう。

 学校と家から歩いて行ける距離にあるのは助かるが、何かこき使われている気がするのは気のせいだろうか?

 支部のあるビルに入り、カードキー、虹彩認証を通過する。

「お疲れ様です」

 居室に入り、挨拶する。

 中には事務員を含め、十数人がいる。

「お疲れ様です、氷室さん。こちらへ」

 先ほど連絡をくれた速水さんが声をかけてくれた。

 速足でそちらに向かう。

「それで、結局何だったんですか? その変質者」

「簡単に言えば成り損ないですね。詳細はこちらの資料に」

 速水さんから纏まったレポートを受け取る。

 成り損ない。

 人から人外に変異しようとして失敗した成れの果て。

 意識も朧になることが多く、人だったときの強い思いに従って本能的に活動する。

 今回の場合はどうやら人だったときから変質者だったようで前科があった。所謂幼女偏愛主義者。小学生を中心に不埒を働き、中学生にも手を出していたようだ。

 そんな男がどのような経緯か人外に変異し、その性癖に従って行動していたのだろう。気持ち悪い。

「氷室さん、襲われなくてよかったですね」

 速水さんが冗談めかして言う。

 まったくだ。襲われても撃退できるが、気持ち悪くて仕方ない。怖気が走る。

「それより氷室さん。そろそろ教えてくれないんですか? なんで日野白を放っておくのか」

「私も聞かされていないから。ただ、どうも結構上からの命令みたいね」

 期待した答えは得られなかった。

 速水さんは支部の情報官として結構な権限を持っているはず。

 私に隠しているようでもないし、本当に知らないのだろう。

 通常は見敵必殺とばかりに人外の排除を行うのに今回は監視なんて。理由を知らなければ納得できない。まあ、理由を納得できるとも限らないけど。

「それにしても、何が上層部はアレを守ろうとしている節ありません? 今回の不審者の件も妙に動き早かったですし」

 今回の件で気になっていたことを速水さんに聞いてみる。

 速水さんも思うところがあるのか、少し険しい顔になる。

「あまり詮索しない方がいいと思う。上の指示に従いましょう」

 険しい顔のまま速水さんは私に言い含めるように言う。

 速水さんは情報官でありまた分析官でもある。こういった怪しい情報への対応は心得たものだろう。

 やはり納得いかない。

 なんでこんな監視なんてまどろっこしいことを。

 捕まえてしまえばいいじゃない。

 その後どうするか決めればいい。野放しにしておいて何か起こってからでは済まない。

 そんな胸の内に渦巻く感情を抑え、上の命令に従う。正直、相当ストレスがたまる。


 本当、なんでこんなこと。

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