第6話 下校
Side: Shiro
「朝に話したとおり、なるべく複数人で固まって下校すること。以上」
帰りのホームルームで担任が再び注意事項を告げる。
ホームルーム後、一年生である私たちは部活見学に向かう。仮入部期間というらしい。いろいろな部活を見て、どの部活に所属するか決めるための期間だという。
担任によるとこの学校は入部は必須ではなく、帰宅部も多いらしい。
ただし、部活見学は必須とされており、生徒の希望に応じてスケジュールが組まれ、それに従ってグループ見学が行われる。1ヵ所50分、移動10分で、1日に3ヵ所を回る。これが2週間の内に5日間行われる。希望者は追加で2日まで可能。
私はもう既に5日間を終えており、本日はこのまま帰宅する。氷室さんは今日が5日目で、見学グループに付いて行った。
帰りの用意はできているので、鞄を持って下駄箱へ向かう。
外へ出るとまだ日は高く、変質者が出るには明るすぎる気がする。
「春の陽気で頭がおかしくなった奴がわいてくるからな。気をつけろ」
校門の前で生徒会の人たちが声掛けを行っている。
その前を通り過ぎ、近くの公園へ向かう。
瑠璃との待ち合わせの場所。
すぐに見つかった。
小学生の集団が猫達を囲っている。
一部の猫は大人しく小学生に撫でられているが、多くの猫は警戒して遠巻きに唸り声をあげていた。その中に瑠璃もいた。
近くに寄ると瑠璃はすぐに私に気付き、こちらに寄ってきた。
小学生達の一部はそれを見て私の方に寄ってきたが、瑠璃が唸り声を上げると二の足を踏んでしまう。
その間に私と瑠璃は公園を離れる。
しかし諦めきれないのか3人だけ小学生が付いてきた。
「ねえ、お姉ちゃん、その猫さんの飼い主さん?」
小学生の一人、女の子が尋ねてきた。
「……そう」
飼い主という表現に違和感を感じたが、当たり障りのない答えを返す。
「じゃあさ、猫さん撫でさせて!」
もう一人の女の子が期待に満ちた表情で要求してくる。
瑠璃を見た。嫌そう。
「だめ」
断る。嫌なことをさせたくない。
「ケチっ」
3人目の男の子が悪態をつく。
「……」
なんと返せばいいかわからず黙ってしまう。
そんな私を見てか、瑠璃が駆け出した。
少し先まで走り塀の上に上る。小学生達は瑠璃について駆け出して行った。
小学生達は瑠璃に夢中で私のことは既に忘れてしまっている。
ありがとう、瑠璃。
そう心の中で思いながら回りの気配に気づく。猫が周りに集まっていた。
瑠璃が私の護衛に付けたのだろう。普通の猫だけど瑠璃が駆け付けるまでの時間稼ぎ役だと思う。
少し居心地の悪さを感じるけれど、瑠璃の気遣いだからと納得する。
学校と家の距離は歩いて約30分。その間に繁華街がある。今日は義兄の夕食は必要ないので食材の買い出しは不要だが、日用品の不足物があるので寄っていく。
繁華街に着いた頃には小学生もそれぞれの家に向かったのか、瑠璃から離れていた。
本来は下校時の寄り道は禁止されているが、律儀に守っている生徒はいないらしい。クラスメイトが帰りにどこに寄っていこうか、よく相談していた。それに、今回は家の用事でもあるので、大丈夫だと思う。
よく使うスーパーに入る。瑠璃は入り口の近くで待機。そうしているとまた小学生に囲まれそうだと思う。大丈夫だろうか?
歯磨き粉、シャンプー、石鹸、あとは食用油、醤油、料理酒。元々予定していた日用品と切れそうな調味料をカゴに入れてレジに向かう。
会計まで10分もかかっていない。外に瑠璃を待たせているし手早く済ませた。
スーパーから出て瑠璃を探す。
今回は囲まれていないようですぐに私の元に寄ってきた。
再び帰路へ。あと10分程度で家に着く。
「大丈夫そう」
既に変質者が出たエリアからは大分離れている。もう大丈夫だと気が緩む。
でも瑠璃はまだ警戒している。真面目。
そんな瑠璃の警戒とは裏腹に、無事、家に着いた。
「ありがとう、瑠璃」
そう声をかけると瑠璃は満足そうに鳴いた。
家の鍵を取り出し、家の玄関の戸を開ける。
今日も無事、一日を過ごせた満足感を胸に、家の中に入る。
あの人と一緒に暮らし始めて最初に感じていた不安感は、今では満足感に変わっている。一緒に過ごしす日常。それを堪能できている。
自然と笑みが出る。
ちょっと恥ずかしい。にやけているのが分かる。
少し前までは、こんな風に過ごせるなんて考えてなかった。でも、今できている。そのことが嬉しい。協力してくれた義母と義兄に感謝してる。
だからどうか、お願いです。この日々を少しでも長く続けさせてください。
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