第2話 学校

Side: Shiro


 家の鍵を閉める。

 私と一緒に家を出る隣の人は、義兄ということになっている。

 これからぞれぞれの学校に向かう。

 義兄は大学に、私は中学校に。

 途中まで一緒に向かう。

 特に話をするわけではない。

 私は居心地が悪いということはないが、義兄はどうだろうか?

 気まずさを感じていないだろうか?

 そんなことを頭の片隅で考えながら、義兄の袖をつかみながら道を歩く。

 桜の花もほとんど散ってしまった道。もう葉桜になりかけている。

 春の空気が心地いい。胸いっぱいに吸い込んで季節を感じる。

 義兄も同じように感じているだろうか?

 同じ気持ちなら少し嬉しいかもしれない。


 もうすぐ分かれ道。

 義兄の袖を話すのが少し名残惜しい。

 仕方ない。別の学校に通っているのだから。

 あと10メートルでお別れ。

 分かれ道が近づいてくる。

「今日はバイトあるから」

 別れ際になって義兄が伝えてくる。夕食はいらないというメッセージ。

「はい」

 完結に答える。そっけないだろうか?

「明日は一緒に食べよう」

 分かれ道に差し掛かったところで最後に義兄が告げる。そのまま義兄は行ってしまった。

 なんだろう。不機嫌に思われた? 気を遣わせてしまっただろうか?

 でも、少しだけ気分が上向いている自分を自覚する。

 単純だと思う。夕食を一緒に食べられるというだけで気がよくなるのだから。

 そんな思いを胸中に巡らせながら中学校に向かう。

 今年から通う学校。

 まだ慣れないが、初めてのことをたくさん楽しんでいる。

 不安要素も内在しているけれど。


「日野さん、少しいい?」

 教室に入って早速、不安要素である人物に声を掛けられた。

「何ですか?」

「例の件。お昼休みにでも話せる?」

 氷室ひむろれい。同じクラスに所属し、そして私たちの天敵である女子。

「わかりました。昼休みに」

「そう、ではいつもの場所で」

 断るわけにもいかず承諾する。下手に断って本格的に敵対したくない。

 それにしても傍から見ると虐めの様に見えないだろうか?

 下手に騒ぎにしたくないので、気を付けてもらいたい。

 そんなやり取りの後は誰とも話すことなく待っていると担任の先生が入ってきた。

 朝のホームルームが始まる。

 出席を取った後、最近、通学路に変質者が出没するので集団下校するようにとの事務連絡があった。私は同じ方向に帰る友人がいないため瑠璃に頼むことにした。後で連絡しておこう。

 ホームルームを終え担任が教室を出ていく。

 皆、一限目の用意を始める。

 一限目は数学。朝から眠くなるとぼやく声が聞こえてくる。

 私は勉強は嫌いではないので眠くなることはないけれど、先生の教え方についてはもう少し改善してほしいなんて考えている。

 そんな取り止めのないことを考えていると数学の教師が教室に入ってきた。

 チャイムが鳴り、日直が号令をかける。

 これからいつもどおりの授業が始まる。

 何の変哲もない、平和な時間。

 私の望んでいた日常。

 すべて望みどおりという訳にはいかないけれど、概ね思い描いていた日々。

 こんな日常を壊さないように、静かに過ごしていきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る