第12話

 静かになっている教室の中で、僕は思った。このまま、小説を書こう。

 

 まわりで何が起こっていても、僕はただ小説が書ければいい……。


 (ノート)


 事件の教室から、僕のクラスに戻ると、僕たちはクラスメートたちに囲まれ、質問攻めに合うとは思ってもいなかった。


「おいおい、一体、この学校で何があったんだ?」


 興味津々な言葉が飛び交う。そのどれもがこの事件に対するものだった。

 少し迷った挙げ句、隠し通せるものではないと僕は思った。


「山本先生が……クラスの生徒たちを人質にして、立て籠もってるんだ」


 僕は話した。


「なんだよ?それ……俺たちもやばいんじゃね?」


 クラスメートは危険を察知しているのだろう。そう言っている。


「そうかも?……でも、浜野先生が自習してろって……」


「自習?!ーー何言ってんだ?!帰るぞ!!」


「ーーで、でも……」


 僕が口ごもっている間に、数人の生徒たちが自らの判断で、家に帰ってしまった。


「自習なんてしてる場合じゃねーよな?……どーする!?もう一回、見にいく?」


 僕にそう言ってきたのは、徹だった。


「ーー徹くん、君、ケータイ持ってない?!」


「持ってるよ。決まってるじゃないか!?」


「ハッキングなんて……出来ないよな?」


「当然だよ。俺にそんな事が出来るわけないだろ?」


 しばらくの沈黙が続いた。

 僕はいろいろと考えをめぐらせたが、それに対していい考えが浮かばなかった。


「よし、行こう!」


 こうして、今度は僕と徹の二人で事件のあった教室を再び覗きに行く事にした。

 事件の教室のドアの前に立つと、僕らの後ろから大きな声が聞こえてきた。


「た……大変です」


 勢いよくその声の主は、そのドアを開ける。


「校長先生、大変……大変なんです!」


「少し落ち着きたまえ。佐藤先生、どうしたんだ?」


「じ……実は、こんなものがメディアに送りつけられているようなんです」


 ペラペラの紙一枚で、佐藤先生(僕らとはぜんぜん関わりがないが)は大騒ぎをしている。


「よく見てください。校長!!」


 それをそっと手に取ると、校長先生は素っ頓狂な声を上げた。


「なんだ?一体、何なんだ?!これは……」


ーーあの紙には一体、何が書かれているのだろうか?!


 事件のその後よりも、あの薄っぺらい紙に僕はとてつもない興味を覚えた。


 

 そして、現実へ。


 事件の事を聞き、クラスメートがそれぞれの判断で帰宅していた。

 本来なら許されない行為だ。

 それでもこんなに緊急事態では、学校側も文句を言えないだろう。

 

 僕には家に帰ることよりも、この事件の全貌を知る事の方が大事だった。

 そのまま学校で過ごす事にしたのは、数名だけだったようだ。


 クラスの中が不気味な程静まり返っている。



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