第11話  事件の教室

 (現実)

 

 あの悲鳴が聞こえてきたのは…?!


 声に耳を澄まして、僕はその声の出所を探す。再び、その悲鳴が聞こえてきたのは、僕らのクラスの右隣のB組の教室からだった。


 恐る恐るB組のドアを少しだけ開けて、僕は中を覗き込んだ。


「この教室から出たら死ぬ事になる」


 黒板にはそう書かれている。


 教壇に立つ一人の教師。

 机に座っている生徒の姿。

 いつも通りの日常がそこにあった。ただ、山本先生がナイフを握っている。そして、それを止めようとしている浜野先生が、山本先生に詰め寄る。


「おい、山本先生、辞めろ!!」


 右手を差し出して、浜野先生がそれを止めようとする。


「ーー来るな!!来たらコイツを殺すぞ!」


 そう言って生徒の一人にナイフを向ける。そのナイフの先にいるのは、渡辺静香だ。


ーーなんだ?なんだ?

 校長先生や、教頭先生など、いろんな人がB組に入ってくる。


「ーー山本先生……君は今何をしてるんだ?!」


 こんなに緊急事態が起きているのに、校長先生はとても穏やかな口調で、語っている。


「うるさい、うるさい」


 山本先生が大声で吠えるように言った。


「山本先生、君はなぜこんな事をしているんだ?」


 校長が相変わらずの静かな口調で言う。


「お前らが……学校が悪いんだ……」


 山本先生が小さな声で言う。


「話を聞こう。だから、渡辺静香さんを離すんだ」


 少し強めの口調で、校長先生がそう言って、山本先生に一歩近づこうとしたその時……。


「来るなーーー!」 


 もはや、先生ですらない犯人、山本志保美が騒いでナイフを振り回している。

 

「辞めろ!」


 これまでの穏やかな口調から一転して、校長先生が声を荒げる。


「山本先生、君はなぜ教師になったんだ?!」


 校長先生が聞く。


「それは……それは……」


 元教師の山本志保美は、言葉を詰まらせている。しかし、ナイフを持った手の力は抜けてはいないようで、まだ握っている。

 それを向けられている渡辺静香が、目に涙を溜めている中、それを見ているクラスメイトも困惑しているのだろう。

 止めるでもなく、目を閉じている。


「おい、なぜ教師になったのか?ーー答えてくれてもいいだろう?」


 校長先生が言っている。


「それは……学校の教育現場を変えるため……」


 山本志保美は、明らかに校長先生に対しての憎しみの目を向けた。


ーー教育現場を変える?!


 その場を囲んでいた多くの教師達が、首を傾げている。

 

「それは一体、どう言う事なんだ?!」


 校長先生が聞き返した。

 

「あなたが一番よく解っているはずですよ?!」


 悟るような口調で、山本志保美が言う。


 そんなタイミングだった。


「おい、お前ら……こんなとこで何をしているんだ?!ーー教室で自習していろ!!」


 覗いている僕らに気がついたのか?突然、浜野先生が僕らに言った。


ーーここからが良いところなのに……。


 僕は動画を撮影状態にした携帯を、ドアとドアの隙間にコッソリと挟んでから、教室へと戻っていった。


「自習かぁ……イヤだなぁ」








 







 

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