第10話 立て篭もり

 (現実)


 翌日、いつもの通り、僕は何もない平穏な一日を過ごすはずだった。

 しかし、昼が過ぎた頃に、突然、僕の日常は一変してしまう。


「キャーーー」


 授業の最中だった。

 タダゴトじゃない様子で、複数の女性の悲鳴が聞こえてくる……。


「ーーなんだ?なんだ?」


 先生の浜野洋平(はまのようへい)は、チョークを置き、チョークの粉を払うように、手をパンパンと叩いた。 


ーーキャーーー。


 もう一度、悲鳴が聞こえてきた。

 この悲鳴は、近い。


 問題の教室は、おそらく右隣か、左隣からのものだろう。


「ちょっと俺は行ってくるから、お前らはおとなしく教室で自習をしておくようにーー」


 担任の浜野洋平は、そう言い残して、教室を後にした。


「僕らも行こう」


 こんな状況で僕らが、おとなしく自習なんてしていられるはずもなく……僕を含む数人が、問題の教室で何が起きているのか。

 覗きに行く事にした。


 不意に昨日買いたページを思い出す。まさか、この後の展開は……?!

 僕のノートには出来ている……?!

 まさか……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(ノートの中)


 複数の悲鳴が聞こえてきた部屋は、右隣のB教室だった。

 

 恐る恐る僕はその教室のドアを少しだけ開ける。

 そこから中を覗き込むと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 教壇に立ち、生徒を教える教師の山本志保美(やまもとしほみ)が、生徒たちにナイフを向けている。


 黒板には……

「この教室から出たら、死ぬことになる」

 そう書かれている。


 志保美先生はとても生徒思いで、授業も丁寧な先生だという噂しか流れていなかったのに、その先生がなぜ、こんな立て篭もりの様な事をしているのだろう?

 僕にはその理由が分からなかった。


「ーーおい、山本先生、何をしてるんだ?!」


 浜野先生が問題のクラスに突入した。それに続いて校長や教頭先生も、乱入してきてこの教室は一気に人混みで溢れかえってくる。


「山本くん……君は今、何をしているのか?解っているのか?」


 静かな口調で校長が聞いた。

 校長のその口調は、いつもと同じトーン、いつも通りのオットリとした話し方だ。


「ーーうるさい。うるさい。それ以上近づくと、コイツを殺す」


 手に持ったナイフを振り回して、山本先生は叫んだ。その時、山本先生に捕まったのは渡辺静香(わたなべしずか)だった。

 静香の顔が一瞬にして崩れるのを僕は見た……。

 

 そんなタイミングで浜野先生が振り返るといった……。


「お前ら、ここで一体何してんだ?!教室で自習していろ!!」


 僕らに向かって浜野先生は、大声でそう言った。


 仕方なく、僕はケータイを動画状態にしたまま、教室のドアの端っこに立てかけたまま、体だけで教室に戻った。


 動画はちゃんと撮れていないかも知れない。だが、声は入るだろう。

 なぜ、山本先生がこんな事をしているのか?その理由が知りたい。



 


 

 






 



 

 

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