第9話 事件発生

 僕がそこまで書いた時、下からお母さんの呼ぶ声が聞こえた。


「秀、帰ってるのー?!」


「うん。さっき帰ってきて、今小説書いてるの!!お母さんこそ、どこに行ってたの?!」


「買い物よ。買い物……」


 今、有料になっているビニール袋を持ち上げて、お母さんは照れくさそうに笑う。

 僕は階段を下りながらお母さんに聞いた。


「お母さん、今日のご飯はなぁに?」


「今日はね。手作りハンバーグよ?!久しぶりだから、上手く作れるかしら?!」


 少し不安そうな顔でお母さんが笑う。


「お母さんのハンバーグ、楽しみだな……。出来たら呼んで!それまでお部屋で待ってるね」


「わかったわよ。もう少し待っててね!」


「はーい」


 僕は勢いよく、階段をのぼり、小説の続きを書くことにした。

 もしかしたら、僕の描く物語は現実になるのかも知れない、と感じ始めているけれど、それでも僕には途中で書くのを辞める事は出来ない。


 ーーそろそろこの物語の中で一番、大きな問題が発生する。

 それは……。


「秀、ご飯よー!」


「はーい。すぐ行くー」


 僕はノートを閉じて、階段を下りていく。

 今日のメニューはハンバーグだ。久しぶりのお母さんの手作りハンバーグが、とても楽しみだった。


「いただきまーす」


 元気よく、僕はそう言って勢いよく食べ始める。

お母さんのハンバーグは、いつも通りの優しい味がした。

 つけ合わせのサラダも、味噌汁もとっても美味しかった。


「ご馳走様でした」

 

 食べた後の食器を流しに置いてから、二階へと向かう。


 さぁ、今日も続きを書こう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(物語の中)


 それは翌日の事だった……。

 僕はいつもの通り、学校での何もない一日を過ごすはずだった……。


「キャーーー」


 突然、複数の女性の悲鳴が響き渡ってくる。

 

ーーどうした?どーした?!


 クラスメート達が集まってくる。その声がどこから聞こえてくるのか?クラス中が静まり返って、耳を澄まして聞いているようだ。


「お前らは静かに自習をしておくように!」


 先生はそう言い残して、教室に僕らを残して走って行った。

 問題の教室は、多分、右隣か左隣の教室だろう。


 悲鳴がすごく近くに聞こえたからだ。


「ーー僕らも行こう!」


 こんな状況で、おとなしく自習なんてしていられるはずもなく……僕を含む数人が、何が起きているのか?

 現場を覗きに行く事にした。


「先生が帰ってきたら、トイレに行ったって言っといてね!」


 クラスメートと口裏を合わせてから、僕らはそーっと教室を後にする。


ーーーこれ、現実になったら怖いよなぁ……。


 まさかね……。

 これまで僕の描いた物語が、現実になっていたようにも思えてたけど、そんな事、あるわけないもんね。


「大丈夫……大丈夫……」


僕は自分にそう言い聞かせながら、そのノートを閉じた。





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