第6話 孤独

 トントントントン。


 足音を立てながら、階段を上っていく。僕の部屋に入ると、僕はあの黒いノートをめくった。


 物語を最初から読み直してみる。登場人物の名前、そしてキャラクターのイメージ……。そして現実にいた二人、中村朱里と澤口徹。


ーーうーん。やっぱり似てるよなぁ……。


 僕が生み出したキャラクターそっくりの人間に会うのは、不気味にしか感じられない。

 まるでこのノートから飛び出してきたようだ。


 いや、そんな事ーーあり得ない。

 あるわけ無い。


 僕は僕の中にあるそんな思いを、振り切るように頭を強く横に振った。


ーーよし、今日も書くぞ!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(ノートの中の物語)


 学校までの数分間、僕はまた彼に会う事になる。

電球の切れた街灯の下に立って、アパートの一室を眺めていたあの子だ。

 名前は澤口徹と言っていた。


「あ、君はこの前の……?!」


 ボーズ頭の澤口徹から、僕はまた声をかけられた。


「この前、ちゃんと家に帰ったの?!お母さん、心配してたでしょ?!」


 僕は気になっていたので、その事を聞いた。


「うん。何とか帰ったよ!まだ仲直りは出来てないから、あれから俺お母さんと話してないんだ……」


「そうなんだ……」


 僕はどんな言葉を返していいのか、わからなくて話を変えようとした。


「そういえば、徹くんはどこの学校に行ってるの?」


「君のクラスにいるじゃないか……?それも君の隣の席に……」


 少し口角を上げ、不気味な笑顔を浮かべると、徹くんは言った。

 そんなはずない……。

 僕の隣の席は確か……中野忠(なかのただし)くんだったはずだ。

 

 中野くんは成績で言えば、底辺にいる。それでも明るくていつも笑ってる。そんな子だ。僕は中野くんの隣で、その笑顔を見てると、何があっても楽しい気持ちになれた。


 僕は学校まで、少し急いで見る。

 現実の澤口徹くんの言動が、不気味に思えて怖くなったからだ……。


「ちょっとー逃げないでくれよー!俺たちはこれから親友になるんだからーー」


 足を止めると振り返って僕は言った。


「親友になんか、なるわけないだろ?!」


 そう言ってから、また急いで学校に向かった。いつもゆっくり歩いてばかりいるから、少し走ると息切れが凄い……。

 僕が運動不足なのは間違いない。


 ゼェハァゼェハァ。ゼェハァゼェハァ。


 荒い息をしながら、教室に到着すると僕は引き戸を開ける。

 その先に見える光景に、僕はまた目を疑った。


 僕は一生懸命走ってきたはずなのに、僕が到着するよりも前に、徹くんは到着していてなぜかみんなで席を移動していたからだ。


 僕一人だけが、取り残されたような気持ちになった。









 


 

 



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