第5話 食卓


(現実)


 いつものように、静かに学校での一日を終えると、すぐさま帰り支度を始めて、急いで学校の門を飛び出した。

 数秒後、僕の後ろから女の子の声が聞こえてくる。


 タッタッタッタッ。

 

「はぁ……やっと追いついた」


 息を切らして、女の子が僕にそう言ったけれど、僕は覚えてないし、ぜんぜん知らない人だと思う。  


ーー人違いだろう。


 彼女の事を知らないから、無視して僕はそのまま歩き始める。


「相原秀くんだよね?!」


「そうだけど……?!君は?」


「私の事、覚えてないの?!昔近所に住んでたんだけど……中村朱里。私が小三の夏に引っ越したのよ?!ちょうど三年前ーー本気で忘れちゃってるの??」


「中村朱里……ナカムラアカリ??」


 記憶を総動員して思い出そうとしていても、まったく覚えていない。

 思い出せない。


「あぁ、いたねー!!誰だか分からなかったよ」


「思い出してくれたんだね。久しぶりだよね?元気にしてた?!」


「もちろん元気だよ!朱里ちゃんは?!」


「元気、元気」


 僕はとりあえず、彼女の事を思い出したフリをしてみたが、まったく覚えてない。

 こうして世間話をするだけでつらい。


「あ、僕……もう帰らないと……」


「そうだよね。じゃーまた……」

 

 中村朱里と言う女の子はそう言って、小さく手を振った。

 もしかしたらお母さんが覚えてるかも?!聞いてみよう。


 一体、彼女は誰なんだろう??


 頭の中にハテナが浮かんでいる。 

 彼女は本当に昔近所に住んでいたんだろうか?


 夜になる。


「秀、ごはんよー」


 お母さんと二人で食べるご飯は落ち着く。お母さんが作ってくれるご飯は、いつも優しい味がするのが、僕には不思議だった。


「いただきます」


 手を合わせてそう言ってから、僕は食べ始める。今日のご飯は僕の大好きなハンバーグだ。


「あ、そう言えばお母さん……僕ね、今日声をかけられたの。昔近所に住んでたらしいの。ナカムラアカリって人、お母さん知ってる?」


「中村……ナカムラ……?!そんな人いたかな?」


 お母さんも不思議そうにしている。


「朱里って子は、僕の名前を知ってたんだ。だから向こうは知ってるんだと思うんだけど……僕はまったく覚えてなくて……」


「少し考えてみるわ」


 そう言ってお母さんが黙ってしまった。

 

「思い出したら教えてね」


「わかった。でも、くれぐれもその子には気をつけてよ」


「うん。もー会わないかも知れないけど……気をつけるよ!!」


 こんな話をしながら、僕たちのご飯は終わった。


「ご馳走さまでした」


 僕はそう言って部屋に籠もると、小説の続きを書く事にした。



 


 









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