第3話 二人の食卓
僕が部屋に戻ってこの物語の続きを描いていると、下からお母さんの声が聞こえてきた。
「秀、ご飯よー!早く下りてきなさーい」
「はーい」
僕は急いで階段を下りていく。
白く四角いテーブルを囲むように、イスが四つ置かれている。
この家ではいつもの光景だった。しかし、僕はいつも不思議だった。家族は2人……なのにどうしてこのイスは四つ置かれているんだろう?
「頂きます」
お母さんと二人で、そう言った。
僕の家には、なぜかお父さんがいない。お母さんと二人だけでこれまでの月日を過ごしてきた。
「そう言えばさぁ……この辺に誰か引っ越してきたの?!」
お母さんは情報通だ。
近所に誰かが引っ越してくると、どこからかその情報を引っ張ってくる。一体、誰から聞いてくるのか?僕にはわからないのだけど……。
「今のところ、そんな話は聞いてないけど……どうして?!」
「僕が買い物から帰ってくる時にね……僕の知らない男の子に会ったんだ。それでね、少しだけ話をしてきたの」
「うん。その男の子は何をしてたの?!」
「なんか、ここの向かいのアパートの一つをジーッと見つめてて、変な感じがしたから声をかけたんだけど……その部屋がその子の家なんだって言ってて、それで僕、最近引っ越してきた子なのかな?って思ったんだ」
「名字とかは聞いた?!」
「うーんとね……澤口徹くんって言ってたよ?!」
「澤口…澤口…?!ーー聞いたことないわねぇ?!これからお知り合いになるのかも知れないわね?」
お母さんが独り言の様に、そう言った。
「でもね、秀。今度からはそう言う変な人には声をかけないで!!今は怖い人が多いんだから」
「わかった。相手が子供でも知らない人に、声をかけちゃいけないの?!」
「そうよ。知らない人に声をかけて、何かあってからじゃ遅いから……」
「うん。わかった。気をつけるよ!」
ホントはそんな事が言いたい訳ではなかったんだけど、何となくそんな話を振っていた。
ーーこの話はまた今度で……まぁ、いっか。
「ご馳走様でした」
僕は自分が食べたものを、洗い場に戻し、水に浸けてから、2階へと上がっていった。
いつも付けている日記に、今日の不思議な体験をメモっておこう。
僕が作り出したキャラクターが飛び出してきたかの様な澤口徹の存在。
そして彼がしていた動作は、僕が描いた通りのモノだったのかも知れないと思ってしまうほど、ノートと現実が重なっていた様に思う。
ーーまさか。
ーーそんな事、あるわけない。
「それにしても、今日は不思議な事があったなぁ」
僕はそう呟く。
しかし、誰に聞いてほしいでもなく、僕の独り言だった。
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