第2話 買い物
僕はいつもの様に、学校での1日を終え、カバンを背負い、急いで家に向かった。
特に用事がある訳ではない。ただ物語の続きを書きたいだけだ。
思いつくままに、物語を書き進めていく。それが楽しい。僕にとっては、一日の中でその時間こそ、大切な時間だった。
学校から家までは歩いても数分間の距離だ。他の人の様に話ながらゆっくり帰る訳じゃないから、僕の場合は、余計に家までの時間は短縮される。
「ただいまー」
僕が元気よくそう言うと、台所の方からエプロン姿のお母さんがバタバタと小走りで出てきた。
「秀、おかえり!帰ってきたばかりで悪いんだけど、買い物に行ってくれない?!」
「いいよ。何を買ってくるの?!」
少しだけ僕が昨日書いた部分のノートが思い起こされる。
「醤油と砂糖、買ってきてくれる?!」
「うん。わかった……」
こうして僕は買い物に行く事になった。
お母さんは外に出ないまま、玄関先で僕を見送っている。
醤油と砂糖を書い、家に帰ろうとしている時、丸ボーズの少年が見えた。
街は少し薄暗くなって、チラホラと街灯が灯されている。
その中の一つ、電球が切れたものの下に立ち、少年はアパートの一室を見つめていた。
「こんばんは。君はこんなところで何をしているの?!」
昨日ノートに書いたところを、不意に思い出しながら、僕は丸ボーズの少年に声をかける。
このあたりの子なら、僕はみんな知っていると思っていたけど、その少年の事は見覚えがない。
ーー最近、引っ越してきた子なんだろうか?!
「俺ん家、あそこなんだ」
丸ボーズの少年が、指を指して僕に教える。少年が指さしたその家こそ、今まで彼が見つめていたアパートの一室だった。
「君は?!」
「俺、澤口徹って言うんだ。こう見えて小学校六年生」
徹くんは僕に笑いかけた。
「ところで、君は?!」
「僕は相川秀って言うんだ。これからよろしくね」
徹くんと僕は握手をして徹くんに僕は聞いた。
「ところで、徹くん、こんなところで何をしてるの?!」
「大したことじゃないんだけどさ、俺、今お母さんと喧嘩しちゃって家に入れないんだ」
「そうなんだ。徹くんが家に帰らないと、徹くんのお母さんきっと心配してるよ!ーー早く帰りなよ。僕、もう帰らないと……」
僕はそう言って、徹くんと別れた。
ーー澤口徹って……まさか?!
その名前を僕は昨日ノートに書いたはずだ。僕の描く物語の登場人物として。そして現実にいた澤口徹……彼がそのイメージにピッタリの少年だった。
そんな事を考えていると、いつの間にか僕は家に帰ってきていた。
「ただいま。お母さん、買ってきたよー!」
僕はそう声をかけながら、台所へと向かった。台所からは、炊き上がったご飯の匂いが漂ってくる。
「秀、ありがとう。助かるわ!」
お母さんが僕の頭を撫でる。
この瞬間も僕には嬉しい瞬間だった。
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