少年A

みゆたろ

第1話  プロローグ

 近所にある古びた本屋で、僕の小説は並んでいる。店員のオススメなのだと言う。

 僕は小説家になった。

 12才、小学六年生の今、僕の描いた物語は「小説」として、売り出されている。


 それはなぜか……!?


 とある事件がキッカケになり、僕の「小説」に世間は食いついた。

 なぜならば……その事件の前から、僕の小説はその事件の詳細を書き連ねていたからだ。


 僕の描く物語りは、現実になるらしいと噂され、周りの人からは気持ち悪がられた。そのうち、僕の事を世間は「少年A」と呼び始めた。


 小説家として、芽を出す原因になった小説、それがコレだった。


 僕は小説を書くために、一冊のノートを買った。


 表紙が黒いけど、中は真っ白で線すらも引かれていない。

 落書き帳のようなノートだった。


 僕はこれまで集めてきたネタを使い、物語を走り書きで書き始めた。


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(ノートに描いてる走り書き)


 特に用がある訳でもないのに、学校からソソクサと帰ると、お母さんが笑顔で待っていた。


「おかえりなさい」


「お母さん、ただいま」


「帰ってきたばかりで悪いんだけど、お買い物に行ってきてくれないかな?」


 少し遠慮がちな口調で、お母さんが言う。


「いいよ?!何を買ってきたらいいの?!」


「醤油と砂糖を買ってきて欲しいの……」


「うん。分かった。行ってくるよ!お金ちょうだい」


 お母さんは使い込んだ古いお財布から、千円札を一枚、僕に手渡した。

 これは僕の中でよくある光景だった。

 醤油と砂糖、それ以外はお母さんが一度、買い物に行って買ってきてあるのだろう……。


 お母さんは忘れっぽい……。

 その忘れっぽい血が、僕の中にも流れているのかと思うと、可笑しくなってきて、笑いがこみ上げてくる。


 買い物の帰りーー僕はボーズ頭の少年と出会った。

 近所の子供なら僕はみんな知っていると思っていたが、どうもボーズ頭のその少年の事は見覚えがない。

 少年が子供である事が、僕には安心感をもたらし、少年が電球の切れた街灯の下に立ち、アパートの一室を眺めていた事が、不審に思えて僕は声をかけた。

 多分、僕以外でも声をかけただろう。


「ーーこんばんは。君はこんなところで何をしているの?!」


「俺ん家、あそこなんだ」


 ボーズ頭の少年が指を指したそのアパートこそ、彼が今までジッと見つめていたその部屋だった。


「いや、大したことじゃないんだけどさ。今お母さんと喧嘩しちゃって、部屋に入れないんだ」


「そうなんだ。えっと君の名前は何て言うの?!」


 今更だけど僕はボーズ頭の少年に名前を聞いた。


「俺?!俺は澤口徹(さわぐちとおる)12才だよ?君は?!」


「あ、僕は相原秀(あいはらしゅう)って言うんだ。同じく12才。よろしくね!」


 僕は徹と言う少年に手を差し出した。

 徹くんも僕に手を差し出し、二人で握手をする。


「早くお家に帰らないと、お母さんきっと心配してるよ!早くお家に帰りなよ!」


 同級生の徹くんに、僕は偉そうにそう言って、僕はその場を離れた。

 お母さんに早く醤油と砂糖を届けないと……。


 家に帰ると僕はいつもの様に部屋にこもった。

早く物語を完成させたかったからだ。


 面白い物語を絶対に作ってみせるんだ!!

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