第25話 ほどよく馴染んで邪魔者くらいになりたい。

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 数日後の放課後、俺は兎川と廊下でばったりと会った。

 クラスが違うから、教室側のほうではなかなか遭遇しない。それにも関わらず、「いつもの会議室」だった場所で俺たちは顔を合わせた。

 待ち合わせなどしていないのに、偶然にも会ったのだ。


「あら、亀山くん」


「おー、兎川か」


 大会が終わって、ペアも解消されて、この会議室に降りていた使用許可もなくなって。本来ならもう、俺たちが訪れる理由なんてとうにないのだ。


 俺は散策ついでになんとなく足を運んでしまったんだが、兎川のほうはどうだろう。野暮な気がするから訊きはしないが、なんともまあおかしな話だな。


「その後、属性の方はどうよ?」


「どうと言われても少し困るのだけど……ええ。久しぶりに使ってみたことで、感覚は取り戻せたわね」


「氷と炎だと、どっちのが楽なんだ?」


「性に合っているのは、やっぱり『氷』かもしれないわ」


「へーぇ。さすがは兎川」


「それ、どういう意味かしら?」


「別に、大した意味はありマセン」


 自然と隣り合って、二人並んで寮への道を歩き進む。


「左腕、完治にはまだかかるの?」


「そうだなー……つか、まだ一週間も経ってないから」


「魔法が効かないのって、やっぱり不便ね。視えないのもそうだけど――そういえば、メガネ掛けてないじゃない。精霊にハンカチも着けていないし、いいの?」


「ああ、そのことについては大丈夫だ。なんか最近、ハッキリとまではいかないが、どこにいるのかとか輪郭くらいは視えるようになったんだよな。この精霊くん限定で。俺たちの絆の奇跡かな」


「へぇー、そうなの」

 半分棒読みじゃねえか。あえてスルーしないでほしいんだが、兎川よ。悲しみ。


「これも、猿井さんが言っていたようなものなのかしらね?」


「不思議なもんだよな。ま、報酬としてはこの上ないだろ」


 未知な部分も多いが、それこそが神秘というものだ。直に触れ続けられるなんて光栄すぎる。


「なあ、兎川。俺って、この魔法社会に少しでも馴染めてるのかな?」


「そうねぇ。馴染むの程度や定義にもよるけれど……着実に馴染み始めてはいるんじゃないかしら。完全には時間がかかるでしょうけれどね。でも、いいこと? まだ四月なんだから、学園生活はこれからよ、亀山くん」


 兎川に言われて思ったが、確かにそうだ。体感としては、もう三ヶ月は余裕で過ぎていたのだった。これまでは一年かかっても友だちができなかったのに、学校でこんなにも話せる人たちができるなんて。未だにどこか信じられないでいたのである。


「まあ、これもご縁だし……これからも、あなたのことを手伝ってあげなくもないわよ?」


「兎川……。そんなん言われたら本気にするぞ、俺」


「上等よ。ただし、ほどほどにね」


「はは、あいよ。それで頼むわ」


 差し出された手をそっと握り返す。彼女の細くて白い手は、少しだけ冷たかった。




 たとえヨソ者だろうが、もう構わない。大事なのはその先にある。

 いざ馴染め。

 俺のこれからの目標は、ほどほどに生きることだ。目立ちすぎないくらいで、学園生活を謳歌するのである。でもまあせっかくなら、いろいろと使いこなした上で意図的に、他者の邪魔をしていけたら充実感があるだろう。

 だから俺はこう言うのだ。



 魔法社会のヨソ者こと俺ですが、ほどよく馴染んで邪魔者くらいになりたい。



                  了

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魔法社会のヨソ者こと俺ですが、ほどよく邪魔者くらいにはなりたい。 久河央理 @kugarenma

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