第21話 精霊の神秘
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翌日、三位決定戦の日。
朝一番に、俺と兎川はスタジアムの廊下で猿井と待ち合わせをしていた。
「亀くん氏! 魔法視サングラス、修理しておきました!」
「おぉ、ありがとな」
駆け寄ってきた猿井は、耳寄り情報ですと言わんばかりにコソッと囁いてくる。
「実はトガちゃん氏、昨夜は安心して涙ぐんでいたりいなかったりしたのですぞ?」
「ちょっと、猿井さん……!? 曖昧に言わな、そもそも言わないでくれるかしら……!?」
「ま、まじですかソレ。詳しく頼む」
「うっさい。マジじゃないから訊くのをやめなさい、亀山くん……っ!」
耳まで赤くなりながら、兎川は顔を背ける。なにそのかわいい行動は。
「さぁさぁ亀くん氏、最終調整のために掛けちゃってくれますか?」
魔法視サングラスを掛け、俺はふと気づく。
精霊たちの様子がなんかこう……いつの間にやらお召し替えをしているのだ。昨日まで不揃いの地味服だったのはずなのに、今日はお揃いの豪華な衣装を身につけている。パレードに出るキャラクターが着用していそうなデザインだ。
まず、雪のように白いフード付きマントは、赤いリボンが蝶結びで左右を留めている。リボンの結び目には各々の髪と同じ色の、つまり白や青といった石が付いていた。
トップスは白シャツで、肩紐付きの革製コルセット・ベルトの下には、白ベルトを挟んで、ふんわりと丸みのあるショートパンツが繋がっている。そのパンツが紺と濃紫のグラデーションになっていて神秘的だ。
以前の質素な雰囲気もよかったが、さらに神聖度が増しているように感じられた。これでは、ハンカチがとても邪魔だな。動きづらいだろうし、早急に外してあげよう。
「やっぱり精霊のこと、気になる?」
ようやく話せるとばかりに、兎川が小声で話しかけてきた。俺も、同じく小さな声で答える。
「ああ……なんでウチだけ、こんな素敵なことになってるんだよ?」
大会最終日の記念にしては、衣装チェンジをした精霊が他に見当たらないのが引っ掛かる。というか、そもそも精霊を連れている人が少なかった。ざっと見渡した限り、俺と兎川の精霊だけのようだし。
「さ、さあ……猿井さんなら知ってるのだろうけど、教えてくれないのよ……」
当の猿井は「うふふ、えへへ」と笑いを堪えきれなくなって、逃げるように走り去っていった。めちゃくちゃ知ってるだろ。
まあ、精霊という存在は当初から謎に包まれているからな。兎川が知らないのも無理はない。
よし、せっかくだから、今日一日は精霊観察もしておこう。上級生が誰も精霊を連れていないから、もしかしたら大会期間限定かもしれないことは、十分に考えられるというものだし。もしそうなら満喫せねばなるまいね。
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