第8話 ブロック公開!
『各ブロックの話に移りますが、ここで注意ポイントです。先ほど、ブロックの数は全部で五つと言いましたが、FMBTに組み込まれているのは四ブロックだけなので、見逃しのないようにしてくださいね。それでは、最初のAブロックを公開です!』
次のスライドが表示され、画面上部にAブロック、下部にはフルネームがずらりと載っていた。一ブロック三十ペアくらいあり、文字が結構細かい。最前列でよかった。
「これ、後ろの人らって見えるのか?」
「ええ、魔法でスクリーン画面を映しているみたいよ」
ぼそりと尋ねると、兎川が小声で軽く解説してくれた。便利だな、魔法って。
目を凝らして、もう一度スクリーンを見てみる。Aブロックに知り合いは誰もいなかった。クラスメイトの名前もいまひとつ言える自信がないくらいだから、何も不思議なことではない。
次なるBブロックには、犬森と猫塚のペアがいた。だが、案外なにも感じないものだ。別ブロックでよかったとも、別ブロックで残念だとも感じない。まあ、お互いに勝ち進めば当たるかもしれないな、くらいは思ったかな。
『どんどんいきますよ、Cブロック!』
「……おっ、あったな」
続くCブロックに、ようやく俺たちの名前が載っていた。兎川の名前を見てか、周りが一瞬だけざわめいたが、当の本人は澄ました顔を浮かべている。兎川が澄ましすぎていて、本当に名前があったか信じられなくなってきた。もう一度確認してみると、あった。よかった。
やはりこのブロックにも知っているやつはいないし、遠慮なくやり合えるってもんだろう。いや、たとえいたところで遠慮なぞしないな、俺も兎川も。
そして、大会に組み込まれているラストワンのDブロック。案の定、俺の知っている名前はなし。だが、兎川から息を飲み込む音が聞こえて、俺は隣を見る。
「――っ」
彼女は、眉をわずかにひそめて口をつぐんでいた。さっき自分たちの名前を見たときには何の反応も見せなかったのに、膝の上に置いた両手をもぎゅっと握りしめている。
このブロック人の中に只ならぬ人がいるらしい事実に、俺も緊張を感じた。それはひょっとすると、ずっと感じていた「会いたくない人」なのかもしれない。
自分以外はみんな一緒、何も特別なんてない。そんな雰囲気を纏っているような兎川が意識するなんて、一体どんな人なのだろう。まず、男なのか女なのかも分からないから一ミリも想像できやしない。つまるところ、某犯人みたいな黒い影しか浮かばない。
『そして、トーナメント戦には参加しないブロックEの公開です。こちらの六名には、私たち運営側と一緒に、みなさんのサポーターとして活躍していただきます!』
組み込まれていないとはなんぞと思ったが、どうやら大会の舞台に立たない人たちのようだ。新入生全員が強制参加なのかと思っていたが、そうでもないらしい。
ブロックEとして表示された六人の中に、熊崎の名前があった。先生が飛行実習のとき、保健室への同行を熊崎に任せたのはこういうことだったらしい。大会への参加がないから、俺のことが知られてもマイナスにはならないわけだ。ところで、救護班へのサポートメンバーは熊崎ともう一人だけのようだが、治癒もそこそこ珍しいのだろうか。
一方の括りには、
『技術班の四名には、魔法道具開発でのサポートをお願いすることができます。その場合、申請等条件がありますので、詳しくは本人までお尋ねくださいね!』
ほう、納得した。兎川は魔法道具をあまり使わないそうだし、詳しい人を頼るのは当然のことだろう。技術班として組まれるくらいなのだから、専門性もそれ相応に高いはずだ。
なにより、魔法道具開発という言葉には胸が踊った。高校一年生にして発明できる人がいるなんて、本当に同じ十五、十六歳かと疑いたくもなる。人生二周目と言われたら、納得してしまうだろう。
魔法師育成トップ校と銘打つだけあって、やはり鶴島学園はすごい学校らしい。思っていた以上に、学びに対する自主性が重要視されそうである。
『では最後に、日程確認といきましょう。いよいよ今週の金曜、土曜、翌週月曜日が予選会です。ここで各ブロック二ペアまで絞られ、火曜日からの本戦を迎えることになります』
兎川が言っていた通り、トーナメントでの救済措置はなさそうだ。
単純計算をしても、三日間の予選会における試合数は各ブロック三十近くあるから、初戦で負けたときの手持ち無沙汰感は想像に難くない。というか、本戦に出れるペアの少ないこと。
『これで、情報公開は終了です。みなさん、頑張ってくださいね! 火曜日を楽しみにしています。以上、羊ヶ丘でした!』
生徒会長先輩は一階席と二階席それぞれに手を振り、お辞儀で締めて舞台袖へと下がっていった。ショーを見ている気分が残っていて、拍手まで巻き起こる。不思議な先輩だ。
『はいはい、勝手に移動しようとするなー。混み合わないよう、順番に二階席から解散だ。なんでって? 人数が少ないからだよ。そんじゃ、二階席。一番後ろの席から移動開始ー』
ホール内が静かになったところで、明かりが点いてアナウンスが入った。この凛々しさと気怠さのある声は牛久先生に間違いない。一階を覗くまでもなく分かる。
二階後席の生徒たちが次々にホールを出ていく中、再び兎川との距離が近くなった。小声でこそこそと話しかけられるが、澄み渡った美声で聞き取りやすい。
「ここからは別の探りが入ることになるわ」
「別っていうのは、やっぱり得意魔法か?」
「ええ。属性が分かれば、戦闘スタイルもそのための作戦も見えてくるでしょう。だから、これまで以上に外部生は注意が必要なの。分かってるかしら?」
「でも俺、隠せるほどまだ使いこなせてないだろ。たぶん、すでに何人か悟り始めている人いると思うぞ?」
「問題ないわ。あなたの属性がすぐに気づかれるだろうことは想定済み。よく今まで騒ぎにならなかったわね、と褒めてもいいくらいには」
「ドーモ」
「亀山くんはいろいろと常識外れで、こちらの常識を当てはめても仕方がない。違う世界から来たと言われても、一瞬頷きそうになるもの。だから、それでいいわよ。知られたところで、対策を立てるのも難しいのだし」
そうね、俺たちでもまだ分からないことだらけだしね。俺だって俺自身の対策分からなくて困ってるレベルだもんね。ひどい言われようだったのはこの際流しますね。ちなみに、異世界からの転生者では全くなかったですね。
「けれど、それだけで留まってはダメ。できることなら、探りに探りを返すくらいはしてほしいものだわ」
「探りに探りを返す、ねぇ」
「できるでしょう? それくらいの捻くれメンタルはありそうだし」
なんだよ、捻くれメンタルって。新種のリサイタルに必要なメンタルのことですか。独奏なんて勘弁だぞ。小学生時代、音楽の発表で一緒にやってくれる人がいなかったとか、そういった経験なんてありませんよ。あの記憶はもう抹消したもん。
「やったことないから分からんけども、まぁやるだけやってみるか」
俺から仕掛けるのはハードルが高いが、密かに探り返すなら不可能ではなさそうだ。
猫塚とか気づいていそうだし、まだいい……いや、訂正する。あいつは何を考えているか分からないし、どこからどこまでが計算かも分からない。
やっぱり犬森がいいか。彼女はそんなに狡賢いタイプではないだろう、というのが俺の見立てである。確かに、今朝の教室を思い返してみると、中心で盛り上げていたのは犬森である可能性が最も高い。しかし、彼女が無理をしていた気がするのも、気のせいとは片付け難い。
「亀山くん、そろそろ行けるみたいよ」
退場の順番が来たようで、兎川に遅れて俺も席を立つ。一階席からは待ちくたびれたらしい声がちらちらと上がっていた。
「ホームルームが終わったら、今日もいつもの会議室に集合よ。サボらないように」
「サボんねーって。ちゃんと行くよ」
「結構」
気づけば、俺の背後にいたはずの兎川が先に階段を上がっていた。この際、もうお互いのペース感などは気にすることでもないんだろうな。なんて思いながら、俺は早足で彼女を追いかけた。
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