第3話 ちゃっかりな妹、怒りの手紙を拝読する。

 スマホの写真撮影機能を使えば、まさかまさかの精霊が視えちゃったことに感動を隠せない。そこに加えて、星良は優しげな瞳を向けてくれた。


「まあさ、るー兄はるー兄だ。学校側も、そうやって入学許可してくれたんだろーし、それでいいじゃんか。ねー?」


 星良が精霊にハンカチを付けながら話しかけると、それはひらひらとなびいた。精霊も賛同してくれているのだ、と受け取っておこう。ずっとスマホを向けてるわけじゃないから、動きの多くは読み取れない。惜しいところをたくさん逃しているんだろうな。


「んで、るー兄のパートナーって誰?」


「それは――って言うか。まだ秘密だよ」


 危なかった。さすがに引っかからなかったが、ちゃっかりしている。


 高校からの入学してくるのは、新入生全体の三割弱らしいから、相手が内部生だということは分かっているはずだ。当然、うちの妹なら兎川の存在は知っているだろう。


「ちぇ~……ん?」


「ん?」


「んん?」


「なんだよ、って……ぁ」


「隙あり!」


 しまった、と気づいたときには既に遅し。星良の手が、俺の目の前を通っていく。掻っ攫われていくは、兎川からの怒りの手紙だ。


「あーっ……」


 これは置きっぱなしにしてた俺が悪いんだわ。にしても、行動早すぎないか? さては長らく狙ってたな。


「って、相手! と、兎川先輩じゃん!?」


「やっぱり知ってるか」


「知ってるも何も、学内の超有名人だよ! 中学二年次には中等部の生徒会長も務め、売られた喧嘩には倍額払うという、まさに才色兼備のお嬢様!」


 おいおい、お嬢様らしからぬ物騒なことが聞こえた気がするぞ。どこが「まさに」だよ。つか倍額って、魔法攻撃と精神攻撃的なあれだよな。物騒だよ。


「それに、入学式では新入生代表で挨拶してたでしょ?」


「そ、ソダネ」


「それ、聞いてなかったやつじゃん」


 勘が良いことで。


「字も美しいんだぁ。さすがだなぁ」


「誰にも言うなよ」


「わざわざ言わないよ~。高一の間で情報公開されれば、そのうち中学でも話題に上がるだろうし、そのときに『亀山って、星良のお兄ちゃん?』って言われたりしたら楽しいよね!」


 だから、無様は許さんぞってか。遠回しにハードルを上げるんじゃありません。


 じっとりした視線を向けると、星良はあちゃ~と楽しげな様子で手紙の後ろに隠れる。ご機嫌にも程があるぞ。何がそんなに楽しいんだ。


「あれ? 裏に何か書いてあるよ。ほら……『いい? 今週の土曜が最後のチャンスと思いなさい』だって」


 今週の土曜、つまり明日だ。授業はなかった気がするのだが――。


「鶴島学園って、土曜は休みじゃ……?」


「授業はないけど、学校は開いてるよ。土曜が活動日の部活とかあるし。だから、会議室だって借りられるハズ。こりゃ行くしかないっしょ、お兄ちゃん? 行かないとかないよね、お兄ちゃん?」


 なぜか外面でアピールしてきやがった。圧がすっごい。家の中と外で呼び方を使い分けるとか、まったく器用なことをするものだよ。ところで、外では「るー兄」と呼んでくれないことって、寂しいのか喜ばしいのかどっちなんだろうね。


「……ああ、行くよ、もちろん。このままじゃダメだしな」


「あっ、連絡先もらってきなよ? るー兄には、通話魔法できないんだから」


「ん? お、おう。そうだった」


「るー兄ほどスマホを使いこなさなきゃいけない人って、鶴島学園にはいないと思うよ」


 それもそうか。その通話魔法ってものでは、きっと電話なしに通話が出来るのだろう。念話とかそういう感じの、耳ではなく脳内で喋るやつだ。アニメで見たことがある。


「――ん?」


「なんだよ、星良」


「や、精霊くんがさ、私に手を伸ばしてて……ほいほい?」


 精霊に応え、星良は伸ばされた小さな手を掴んだ。俺はその様子をスマホの画面越しに見守ることにする。


「――も、もしもし? あっ、兎川先輩? 兎川陽華先輩ですか? 私、亀山月人の妹の亀山星良です! いつも兄がお世話になってますーっ」


 な、何事か!?


 何が起こっているのかまるで分からずにあたふたしていると、声を発していないのに「しっ」と星良から諭された。


「いや、私もビックリですよ~。精霊を通じて会話できるなんてすごいですね! 通話魔法がこんなにも簡単にできるとは……あははっ」


 妹のコミュニケーション能力があまりにも高くて、お兄ちゃんは驚きを隠せませんでした。で、何事なの? 俺だけ置いてけぼりなんだけど……。

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