第12話【3】娘の彼氏-4-
それからしばらくして、梨奈から、杉崎くんと付き合う事になったと知らされた。
なぜかチクリと胸に刺さるものを感じながらも『良かったね、おめでとう』と答えた。
その言葉も嘘では無かった。
でも、確実に私は杉崎くんを、以前とは違う意味で意識していた。
彼に触れてみたいと思った。
きっと、もう少し年が近かったら、違う出会い方をしたら、そうしていたかもしれない。
こんなオバさんに受け入れられても、彼の大切な時間を無駄に潰すだけのような気がしていた。
杉崎くんは、今でも私のバイト先のファミレスに来る事がある。
それにどういう意味があるかなんて、私には知る由も無いけれど。
でも、たまに熱っぽい視線を感じるのは、きっと気のせいで私が自意識過剰なだけだろう。
きっと、若い子の立ち直りは早い。
梨奈の方が自分に相応しいと、彼も気づいたはずだ。
薄暗くなりかけた時間帯、アルバイトが終わるとまた私は帰路に着く。
店の扉を開けると、彼が、杉崎くんがガードレールにもたれ掛かるようにしてこちらを見た。
「香奈美さん・・・」
と、私に呼び掛ける。
正直、ドキリとする。
私は大きく息を吸い込み、また吐き出した。
「その呼び方、やめてくれないかしら・・・」
精一杯冷たく言った私の腕を彼が掴んだ。
触れた腕から彼の体温が伝わり、やけに熱く感じる。
私はその手を振り払った。
強がって、平気なふりして、大人ぶる。
今の私には、それが精一杯だ。
なぜなら、私には、
その壁は、越えられない
その壁は越えられない 彩京みゆき @m_saikyou
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