第10話【3】娘の彼氏-2-

 ほんの数日後だった。

 娘が『彼氏』を家に連れて来たのは。

「初めまして、杉崎です。

 お邪魔します」

 と、爽やかな笑顔で挨拶したのは、あのファミレスの常連の彼だった。

 私だと気づいてない?まあ、当然の事かもしれないけれど。

 娘と同じ高校だと分かっていたし、そう驚く事も無いだろう。

 言葉を失いそうになりながらも、

「あら、驚いた。

 梨奈りなが男の子を連れて来るなんて、初めてだから・・・」

 実際その通りだった。

「やだ、ママ。そんな事言わない・・・」

 照れた娘の顔を見ると、あ、確実に娘の方は彼『杉崎』くんの方が好きだな、というのは分かる。

「うふふ、若いっていいな。

 どうぞ、ごゆっくり」

 と、ファミレスと同じようなセリフに思わず自分で苦笑いする。



 間もなくして『彼氏』は思ったより早く帰ってしまった。どうやら娘を送るついでに少し寄って行っただけの様子だ。

 娘は聞くまでも無く杉崎くんの事を話してくれた。

「素敵な彼ね」

 と私が言うと、

「まだ、付き合ってるわけじゃないし」

 と梨奈は言う。

 『まだ』と言う言葉に、娘の思いを感じながら。


 16歳の娘と、18歳の彼。

 お似合いのカップルだ。

 でもなぜだろう?

 このモヤモヤしたような気持ちは。

 自分が最初に見つけたと思った素敵な芸能人を、実は娘が先に知っていたとか?そんな感覚なんだろうか?  

 なぜか梨奈には、彼がバイト先のファミレスの常連さんだと、言いそびれてしまった。

 大した事では無いけれど、きっと。

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