第8話【2】君はアイドル -5-


 いつもの地下のライブハウスのステージで、

 相変わらず私はライトを浴びてキラキラの衣装で歌い踊る。

 そう多くは無いファンの声援を浴びながら。


 私は皆の偶像。

 自らそれを望んでここにいる。


 笑顔は絶やさないで。

 皆の憧れの私でいて。




 ライブ終了後の購入特典の列に、またカネキチさんは並んでいた。いつものように。

 またマミってあの子と一緒だ。


 握手をしながらカネキチさんが言う。

「ユカリン、今日も天使だったよ!」

「わあ、カネキチさん、今日もありがとうございますぅ」


 この人は、私が自分の事を特別な目で見ているなんて考えもしないのだろう。

 彼の中の偶像の私は、皆を平等に愛してる天使だから。


「マミさんも、また来てくれて、ありがとうございますぅ!」

 と、彼女に握手を移行する。


「わあ、ユカリン、私の名前憶えてくれたんですね!感激ぃっ!!

 今日はご報告です、


 私、カネキチさんとお付き合いする事になりました!


 もう、ご縁をくれたユカリンに感謝ですぅ」


 と、無神経に無遠慮に、

 或いは計算なのか?

 嬉しそうにマミは私に報告をして来た。


 一瞬、言葉に詰まりそうになる。


「わあっ!!

 びっくりしちゃったっ!!

 私がご縁なんて、最高じゃないですかっ、嬉しいぃ〜」

 語尾にハートが付くみたいに、テンション高く喋って。

「またカップルで来てくださいねぇ〜」

 笑顔を絶やさず、愛想良く。

 

 私は、どんな事があっても、皆のアイドルだから。


 そして、カネキチさんのニコニコに嬉しそうな笑顔が、

 何よりも私の胸に突き刺さっていた。




 こうなってみて初めて気づいた。

 私にとってカネキチさんの存在が、どれだけ支えだったか。

 きっと彼は、私がこれ以上誘うような行動を取ったら幻滅するだろう。

 なぜならそんな私は彼の偶像のユカリンでは無いから。

 彼のユカリンは、ファンに対する愛は平等なはずだから。


 私は、彼の理想のユカリンを壊す訳には行かなかった。

 ファンとしてのカネキチさんまで、失いたく無かった。


 

 だからきっと私は、

 このままずっとカネキチさんやファンの皆の偶像でい続けなきゃいけないんだ。

 

 綺麗で可愛く、愛想良く。

 皆の憧れの私でいられたら、



 きっと、ずっと、


 このままでいられるはずだから・・・。


 





ーto be continued

 next, another storyー

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