第7話【2】君はアイドル -4-

 ライブハウスを出ると、途端に虚しくなった。

 祭の後の虚無感。

 ここからは、普通に電車で帰宅して、誰もいない家に帰る。

 ステージに全集中をして、帰宅後は毎回まるで抜け殻のようになる。

 簡単な打ち上げをする時もあるけど、基本的にそんな飲み歩くお金も無い現状。

 誰かがご飯を作ってくれるわけでも無いし、だいたいコンビニで何か簡単な物を買って帰る。

 でも、ステージに立ち続けていられるだけマシな方だ。

 声援をくれる、誰かがいてくれるから。

 貰ったファンレターを読みながら、たまになぜか泣きたくなる。


 得た物もたくさんある。

 無くした物は、

 決して数えないように。 




 家に帰ると、衝動的にSNSのアカウントを作った。

 『森川優佳』アカウントを。

 アイコンは最新CDのジャケ写で。

 告知だとかライブの感想だとかよりも、カネキチさんにメッセージを送るためだけに。

 これは、絶対に驚くでしょう!

 罪悪感はあるけれど、でも私だって人間だし。ほんの少しのプライベートなやり取りぐらい大目に見て欲しい。


 メッセージ送信。 

 簡単に、単純に、私だという事と、このメッセージは内密にねという一言。

 きっと興奮してすぐに返信が来るはず。

 ねえ?

 この私がこれだけ譲歩してあなたにメッセージを送ってあげてるの、嬉しいでしょ?

 あなたはあんな普通の女友達で妥協する事無いのよ。って、我ながら思う事が意地悪だけれど。


 でも私だって努力してるんだ。

 この細さは生まれつきじゃないし、万年ダイエッターだし。

 色の白さは貧血のせいもある。

 毎月のアレはダイエットのせいで止まった事もあるけど、それでも太るわけに行かないじゃない。

 衣装が入らなくなったら、自分が許せなくなる。

 いつも綺麗で可愛くて細くて白くて、肌も綺麗で。愛想良く、皆の憧れで。

 それが私の理想で、私自身なんだから。


 

 いつまで経ってもカネキチさんからの返信が無くて。

 待ちきれずにカネキチさんのアカウントを覗いて見る。

 

 なぜか、私のメッセージが拡散されていた。


『>RT: ユカリンのなりすまし発見です!

 皆さんもご注意あれ。

 しかしユカリンもなりすましが出るほど有名になったって事だよね?有名税?

 まあ、我らがユカリンはこんな事ありえないし騙されないか(苦笑)』


 ポカーン、と。

 私は頭が真っ白になる。

 一瞬どういう事なのか意味が分からなかったけど。


 この人、どんだけ私を理想化してるんだろうか?って。

 私はそんな偶像には程遠い、本当はただの普通の女の子だって、何ならさっきみたいに毒も悪意だってあるのにって思うと、妙に悲しくなった。

 ああ、あなたは本当の私の事なんて、少しも理解してないんだって、

 私の気持ちなんて考えようともしないんだって。

 そう思うと、なぜだか涙が溢れて来た。


 キラキラのライトを浴びても、

 皆の偶像であっても、


 結局私は、

 一人だった。

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