第4話【2】君はアイドル -1-

 ここは日の当たらない場所。その中では、最もライトが当たる場所。

 私、森川優佳ゆかはいわゆる、地下アイドルってやつだ。

 本来暗いはずの場所で、ありったけの光を浴びて、声援を浴びる。


 誰のため?

 ファンのため?

 自分の夢のため?

 

 自分でも分からないまま、ただ突っ走る。

 メイクとキラキラの衣装に包まれて、今は誰よりも輝いているフリをする。

 ライブ後に時々一人の家で、どうしようもない孤独に包まれても。 



 終演後の物販コーナーでのファン特典は、CDやグッズを買えば買うほど特典アップされる。

 私は記憶力を総動員させてファンの顔を思い出して、新しい顔とその時話してくれたエピソードも覚える。

 アイドルの仕事は、歌ったり踊ったりだけじゃない。こういう接客も仕事のうちだ。

 誰がどの会場に来ていたとか。話してくれたら何歳なのかとか何の仕事をしてるのかとか。いつからファンだとか。

 距離感を誤らないように、慎重に関係を構築する。ある意味、これも人間関係だ。


 中でも無理に覚えようとしなくても印象的なファンがいた。

 いつもの常連の『カネキチ』さんというかなりの初期からのファンだ(多分本名は『金木』とかだろう) 年齢は私より2歳上の大学生でアルバイトの実家暮らし。

 大量のCDやらグッズを買うわけでも無いけど、やけに印象に残る。

 多分、一般的に特別イケメンというわけでも無いのかもしれないけれど、何かいちいちツボにハマる。

 少し色白で、少し長めの茶色い髪。背が高くて肩幅がカッチリしてるけど細身。

 何だろう。

 単純に好みのタイプなのかもしれない。

 彼はリアルではモテないんだろうか?

 彼女はいないのかな?

 まあ、いたらこんなところに通わない?単純に趣味なのかもしれないけれど。


 私だって人間だから、人の好き嫌いとかタイプとかそうでないかってのは、もちろんある。

 だからと言って、彼とどうこうなるとかも無いんだろう。

 自分の中での鉄壁のルールだし。

 ファンとの恋愛禁止は。

 だって気まずいし。

 ステージの上から、どんな顔して見ればいいわけ?

 二人にしか分からない合図を送る?

 なんて、妄想してる自分に気づいた。

 ありえない。

 彼は私の事が好きなんだから、そんな単純な安っぽいハッピーエンドなんて、本当にありえない。

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