第2話【1】彼は僕の神様 -2-
女子の家庭科の後は、教室内で皆が決まってソワソワする。
「なあ、今日の女子の調理実習、マフィンらしいぜ。
お裾分けどうぞー、とか無いかな?
例えばさ、白石とかさ・・・」
「白石がお前にって、無いっしょ」
クラスメイトがそんな風に笑いながら、目当ての女子に貰えるのを期待している。
「館林くん・・・」
と、戻って来た白石が俺に声をかける。
周りがこちらに注目してるのを感じる。
「これ、調理実習で余ったから、良かったらどうぞ」
って、微笑みながら、サラリと自然に渡そうとする。
きっと彼女は誰もが喜んで受け取るものだと思っているだろう、そんな笑い方に見えた。
「ごめんね、
俺、甘い物苦手だから・・・」
そんな風に、俺は笑みを浮かべながらも、心ではバッサリ彼女を拒絶する。
「あ・・・
そうなんだぁ・・・。
知らなくて、うん、ごめんなさい・・・」
って、明らかに動揺しつつも、それを笑顔で隠す。
「今度機会があったら、甘く無い物にするね」
「うん、ありがとう」
と、答えるも、自分でも多分目が笑って無い事を自覚している。
「永、
甘い物苦手とか、嘘でしょ?」
と、彩月が後ろから声をかける。
「いいんだよ。
平和な嘘・・・」
当たり障り無く、誰も傷付きにくい嘘だ。
「彩月くーんっ!」
と、今度はやけにテンション高く高島という女子が彩月に声をかけて来た。
「ねえ、
良かったらこれ、どうぞ!」
と、有無を言わさず彩月にマフィンを押し付ける。
「え?
あ、ありがとう」
「彩月くんて、館林くんと仲良いんだね」
「・・・仲良いって言うより、
永は、僕の神様だよ・・・」
って、彩月はまたほわほわ笑いながら言う。
何だ、それ・・・。
「神様?
何となく分かる、何でも出来そうだしね。
カリスマって感じ?」
って、高島が言う。
あー、ホントにこいつもうざい。
だから、生まれつき何でも出来るやつなんていねーし。
「うん、
永は、昔から何でも努力してるしね・・・」
そんな彩月の言葉に、ふいにドキリとする。
彩月は時々、他の誰もが言わない核心を言い当てる。
「そんな永が、
好きなんだ」
バカかこいつ。
自分に気がある女に、
俺の事を好きって言ってどうする?
「彩月、
それ何か手紙入ってない?」
鈍感な彩月に、俺は指摘する。
「え?
ホントだ」
無防備に、無神経に、彩月は俺の前でマフィンの袋からその手紙を取り出す。
ピンクのミニレターに、
『好きです』
と、ハートマーク付き。
「え?
・・・え!?」
「モテ期じゃん、
良かったね」
ポン、と彩月の肩を軽く叩く。
まあ、そんな気がしていたし、
ホントに分かりやすい女子。
彩月があんな軽めの女子、好きになるはずなんて無さそうだし。
俺も別に白石とか隠れ自意識過剰そうな女なんて、興味ねーし。
ほんと、色々と、うざいし、イライラする。
彩月もあんなやつのモノなんて受け取らないで、
俺だけ盲信してろっていうの・・・。
苛立ちの理由を、
本当は知っている。
だからと言って、自覚したところで何にもならない。
俺は、完璧なはずだった。
そう、きっと、周りから見れば。
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