その壁は越えられない

彩京みゆき

第1話【1】彼は僕の神様 -1-

 館林永たてばやしえい、高校3年生。

 成績優秀、見目麗しく。

 誰が言ったか、俺のあだ名は『王子』

 俺に欠点など無いと皆が言った。


 誰も彼も、ホントはうざいし、つまらないし、退屈で、うんざりだ。

 何でもかんでも、生まれつき器用に出来るワケ無いんだ。努力は見せずに、サラリと出来るフリをする。

 損をしないように、普段は愛想良く立ち回る。


 中でも、ホントにこいつはうざい。

 ついつい、態度にも出てしまう。


えい、おはよう・・・」

 もはや腐れ縁となりつつある、この池上彩月いけがみさつき(男)は、その辺の女子よりも細くて色が白い。

 俺を追いかけて、校門の前でつまずきそうになる。

 慌てて俺は、腕を掴む。

「あはは、

 ごめん、永・・・」

「まったく、うざっ・・・」

「うん、いつもごめん、ありがとう」

 と、ほわほわした笑顔を見せる。




 小学生の頃、彩月は今よりもっと小さくて細くて、名前も女の子みたいだからそれをよくクラスメイトにからかわれていた。

 そんなこいつを、俺は気まぐれに庇った。


『弱い者いじめ、

 だっさ・・・』


 たった、その一言で、周りは凍り付いた。


 その一瞬から、彩月は、まるで俺の信者になったかのように崇拝し始めた。

『永は僕の憧れ。

 僕は永みたいになりたい』

 そんな言葉をこいつから何百回も聞かされた。




 まったく、うざい。 


「おはよう・・・」

「あ、おはよう、白石さん・・・」

 同じクラスの白石優梨奈に、彩月が答える。

「おはよう・・・・」

 と、俺が答えると、彼女は男なら誰もが惚れそうな爽やかな笑みを浮かべた。


 彩月は彼女と俺を見比べると、

「永と白石さんてさ、何となく似てるよね。

 きっと、彼女、永の事好きだよ。

 僕、二人はお似合いだと思うけどな・・・」

 と、俺に言った。

「は?

 意味わかんねーんだけど・・・。

 ぜんっぜん興味ねーし」

 なぜか、彩月はニコニコ笑う。


 ホントに、うざいし、

 こいつは本当に、イライラする・・・。

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