陰キャ・アイドル『根暗☆天使』

第1話

　10代最後の年。

　私たち、売れないアイドルは事務所の方針で、ユニットを組まされる事になった。

　その名も、陰キャ・アイドル『根暗☆天使』

　そんなん、売れる訳無いと思った。　　

　メンバーは私、センターの【根】根本優希（ユウキ）と、【暗】倉田香奈、【天】天野さつき、の3人。　

　だからと言って『ネ・クラ・テン』とか、趣味悪過ぎでしょう。

　コンセプトは、『絶対笑わないアイドル』

　『笑顔を見せたら、卒業します』

　(え！？アイドルの禁止事項って恋愛禁止とかじゃ無いの！？)

　インスタのアカウントの更新も、もちろん真顔。

　病みメイク。

　ダークで死神やらゾンビのイメージの衣装。

　全くおかしい！

　ところが、世の中おかしな事に、なぜかそれが珍しかったのか面白がられた。

　インスタのイイネやら、Twitterのリツイートもハンパ無かった。

　コメント欄には、

『今日もユウキちゃん、病み可愛い』

『ユウキちゃんのおかげで、今日も死ぬのを踏み留まりました』

『流血衣装、萌え〜』

『その青アザは、本物ですか？メイクですか？』

　意味分からない！

　怖っ！！

　デビュー曲は、

　『呪ってやる』

　歌詞がまたおかしい。

♪君のことを　呪ってやる

彼を奪った　君のことを

ついでに彼も一緒に呪ってやる

さあさあ　悪夢の世界へようこそ

呪ってやる　

呪ってやる♪

　ある日、メンバーの天野さつきがインスタで『黒魔術』大好きを公表した。

　黒魔術グッズやら、本やら、時には黒い呪い（まじない）の紹介。

　何それ、この人、マジなの！？

　怖っ！！

　と思ってると、なぜかそれがウケた。

　さつきのせいで、私達それぞれにまた新たなキャラ付けがされた。

　倉田香奈は、死にたいキャラ。

　私は、絶対的にツイてない、アンラッキーガール。

　何それ！？

　そのキャラ付けがそもそもアンラッキーガールじゃない！？

　ある日、メンバーの倉田香奈が、左手のリストカットについて、

　『メイク完了☆』

　と、ヤラセ(!?)である事を公表してしまった。

　ファンからの反響は、

『メイクとか・・・』

『騙された・・・』

『同志だと思ってたのに、裏切られた・・・』

　と言ってネット炎上。

　いや、ファッションじゃなく本物だったら見せる意味！？

　炎上の意味が分からない！！

　私は、アンラッキーを探す毎日だった。

　でも、コンビニのクジで当たりを引いてしまった(ラッキーだけど、キャラ的に逆にアンラッキー)

　カフェ店員のイケメンに微笑まれた(ラッキー・・・じゃないわっ)

　雨の後に虹が出てた(むしろラッキーが続いてるんじゃないか！？私)

　ああ、ヤラセでも何でもアンラッキーネタを更新しなきゃ！！(焦)

　ぼーっと歩いていたら、青信号の交差点で車に軽く接触された！

　青アザ程度で済んだけど、事故処理で警察を呼んだりして仕事に大幅に遅れた。

　お陰で今日のアンラッキーネタが作れたので、アップした。

『その青アザは、本物ですね。萌えー』

『さすが、アンラッキー担当ですね』

『遅刻で謝るユウキたんの姿に萌え〜』

　意味分からない！！

　人の不幸を喜ぶのか！？

　私は、『根暗☆天使』を辞めたくなった。

　自分に嘘は付きたく無い。　　

　ある日の雑誌での撮影でのサプライズ！

　すっかり忘れていた。

　小さなケーキだけど、

　『ハッピーバースデー　ユウキ』

　のプレート。

　かわいいイチゴやフルーツが乗ったケーキに、思わず微笑んでしまった。

　気づかないうちにそれを撮られてしまったらしく、記事にされていた。

　そんな事から、ネットで炎上。

『え！？ユウキたん、笑ってるんだけど！！』

『ケーキ、普通に可愛いんだけど、嬉しそうなんだけど、騙された』

『普通にラッキーガールじゃね！？嘘付き』

　この人達は、私が不幸な方がいいんだろうか！？

『ユウキたん、キャラブレブレ』

『笑顔が普通にかわいい』

『ユウキたん、キャラ作り大変だったね』

『私は、ユウキたんには普通に笑っていて欲しい』

　私は、『根暗☆天使』を卒業する事に決めた。

　私が卒業を発表すると、天野さつきが

『ユウキがセンターなんて納得行かないでしょ？

　黒魔術の効果バッチリ！！』

　私の事故やら炎上騒ぎを黒魔術の効果だと公言したので、半分炎上、半分熱狂的信者ファンに支持された。

　私はそれが全部黒魔術効果だなんて思わなかったけど。

　怖っ！！

　と思って。

　天野さつきから離れられた事にホッとしていた。

　その後、倉田香奈もキャラ設定がブレブレで演じ切れずに脱退して。

　実は明るいキャラだった事を暴露してバラエティアイドルに転向。

　残った天野さつきは、黒魔術キャラで、アンダーグラウンドな人気を博し続けた。

　結局キャラ設定が崩壊して、アイドルユニットも崩壊した『根暗☆天使』だったけど、あの時代が無かったら、今のメンバーの人気も無かったのかもしれない。

　私はというと、地道に勉強をしつつも、女優の仕事を少しずつ頂けるようになって来た。

　『根暗☆天使』は、私にとってのアンラッキーだと思ってたけど、全てがアンラッキーという訳でも無かったようだ。

　(黒歴史と言われようとも！)

　そして、いつの間にか私は、他のアイドルよりも炎上に慣れてしまってたから。

　あの時よりも、今はだいぶ穏やかな日常に思える。

　今日の役は、二時間ドラマで血を流しながら死ぬ役だったとしても(笑)