第九話・弐 ー解放ー
ーーーーー翌日
ついにD-HANDS、猫手会や呟焼町中の絵師や町人が宮殿に集まり、鳳一家討伐隊の出発式が行われた。
本来、すぐにでも向かいたいところではあったが、町人を安心させるために一度声をあげたほうがいいだろう、ということになったのだった。
「それでは皇帝より、皆への言葉がある。直接言葉を賜われる、心して聞くがよい!」
ジャンの従者・零が聴衆へ声をあげた。それからゆっくりと立ち上がった。
「皆の者!これより数時間後、我ら討伐隊は勝どきをあげ凱旋するだろう!心配することはない、滅ぶべき悪は『鳳一家』!これからも皆の者の生活の安寧を約束しよう!」
うおおおお!と叫ぶ聴衆を横目に、討伐隊は出発していった。
心配そうに祈る者、「頼むぞ!」と叫ぶ者、亡き家族の遺影を持ち泣く者…様々な思いを背負い、討伐隊は進んでいった。
ーーーーー
「もしもし、私です。そうですか、わかりました。えぇ、抜かりなく。」
これから討伐隊との戦闘が待っている鳳一家、その中の一室で木慈が電話をしていた。するとドアをガチャリと開け、闘鶏が入ってきた。
「おおおい!そろそろ来るぜ、メイド」
「はぁ…メイドではありません、執事です。殺しますよ。」
がはは!と笑いながら、部屋を出る木慈の背中を叩き、戦いに向けて持ち場についた。
「あん?おっと…なんだ?」
闘鶏は懐から携帯を取り出した。
「どうしましたか」
「おっ……と…先行っててくれ!」
闘鶏は携帯の画面を見て、慌てた様子で木慈から離れた。
「わかりました、早くしてくださいよ」
「あいあい!……はい、俺です。まだ少女と広橋は無事です。」
闘鶏がいつもと違う口調で、誰かと電話をした。しかし、物陰で見ていた木慈が動き始めた。
「さて、やはり、ですか…」
ーーーーー
討伐隊の先陣を切り、鉄と歩く陸。
「陸、お前こないだ倒れたんやて?大丈夫やったんか?」
「あぁ…うん、大丈夫。心配はないよ…」
ーーーーー
宝治の告白に倒れてしまった陸。
(あれ、俺どないしたんや…)
そこは以前、宮殿で暴走したときにみた光景だった。違うのは目の前のモニターの前に見知った人がいたことだ。
「おはよ、陸…また来たわね」
「…え?母さん!」
目の前には照夜がいた。宝治から『消えた』と聞いた直後、自分が倒れたことを思い出した。
「宝治さん、老け込んじゃったわ…炎も大きくなったわね。前、あなたがここへ来たときは銀くんとジャンしか見られなかったから…」
「ちょ!え、ちょっと待って!え、母さん…まさか」
にっこり笑う照夜が陸の頭をなでた。そして涙を流していた。
「そう、前にあなたが来たとき、名乗れなかった…どの面下げて会えるのかと怖くてね…でもこれから戦う、一人前になったと思ったら、私の力をちゃんと教えないと、と思って」
陸も気が付かない間に涙していた。
「母さん…」
「時間がないけど、これだけ伝えるわ。闇の力は私が中から制御するわ。だから、思いっきり使いなさい。ちゃんと冷静になれば、私の資質を受け継いたあなたなら問題ないわ、大丈夫」
照夜に抱きしめられながら、陸は力の使い方を教わった。そして、夢を見ていたかのように自然と目を覚ました。
今度は心配そうな宝治と炎がいた。
「大丈夫か、陸!」
陸は一息ついて、二人に向かい座り直した。
「俺は大丈夫や…明日は気張って行こうや!」
「なんや、いきなりどないしてん」
と、笑う炎。
三人は笑い合い、酒を飲み、鳳一家討伐へ弾みをつけた。
ーーーーー
「母さん…」
ーーーーー陸
「おい、陸!」
「うわぁ!ご、ごめん…炎にぃ…」
「ほんま頼むで、何ぼーっとしくさってんねん!大丈夫か?」
ははは、と笑いながら陸は周りを見た。
怒気を含んだ目で屋敷を睨むもの、武器を皆に渡しているもの、恐れなのか武者震いなのか震えているもの…改めて、 もう後戻りできない状況だとわかる。徐々に森が開け、屋敷の全貌が顕になった。古びた屋敷だが、D-HANDSよりも大きい。
そして、屋敷の前にはずらりと鳳一家が並び立っていた。
その先頭には……
「よう、待ってたぜぇ、小動物共…ケケケケケ!!」
芝を殺した、いや、芝だけではないD-HANDSの罪もない職人をも殺した闘鶏が待ち構えていた。
「陸…今、怖いか…はっきりいうて、俺は怖い!」
鉄が陸に尋ねた。しかし返答はない、それもそうだ。
今にも飛びかからん表情で闘鶏を睨みつける陸がいたからだ。
「あとは野となれ山となれやな…野郎どもぉ!ここはD-HANDSの弔い合戦じゃぁ!!やんぞコラぁぁぁ!!」
うおおおお!という雄叫びと共に、鉄を含めた愚連隊が突撃していった。
「おぉい、俺様にがん付けてるてめぇ、こねぇのかぁ?あぁ?」
陸は目を反らし、天を仰いだ。そして体の力を抜くように、大きく息を吐いた。
「言われなくても……殺ってやるよ!!」
一瞬にして木の鎧を纏った陸は闘鶏に向かい一直線で突進していった。
「よし、道があいた…俺らはこのまま中に突っ込むぞ!」
銀達は、愚連隊と共に向かってくる鳳一家の下っ端を払いのけながら、屋敷へと侵入した。
中に入ると、邸内は薄暗く、外の喧騒とは打って変わって静まり返り、何が飛び出してくるかわからない不気味さを醸し出していた。
「嫌に静かだな…」武市がつぶやいた。
「そやな…」炎もいつもの粗暴さを抑え、慎重に声を出した。
すると、奥からシャランという音と、地響きが起き始めた。
「静かなのはさぁ…僕の研究の邪魔だからさぁ、防音にしてるんだよねぇ」
「坊っちゃん、屋敷は全部が全部防音じゃありませんよ」
薄暗い中から、戦闘服を身にまとった木慈と、その後ろに隠れるように燕が何かに乗って現れた。
「おぉおぉ、おでましか?」ジャンが一歩前に出た。
木慈の顔が一瞬険しくなったのがわかる。
「今からでもこっちにつくってのはありだぞ、元空軍総隊長・雉間?」
「くっ…その名で呼ぶなぁ!!!!」
木慈はジャンに向かい、羽型のナイフを投げた。しかし、ジャンのサーベルにすべて弾かれてしまった。
「総司令・翁…桃…犬飼…猿田彦…そして一番心を許したばぁさんも…奴らが死んで、気でも触れたか?雉間よ」
「うるさい!うるさい!!」
怒りにかられジャンに飛びかかろうとする木慈を抑える巨大な手が現れ、木慈の後ろにいた燕が前にでた。
「落ち着けって、木慈…こいつらはコレが殺してくれるってさ」
燕が後ろを指差すと、通路のほとんどを埋め尽くすような巨大な腕が生えた蛇、いや、ミミズの化け物が現れたのだった。
「でぇ!なんやあれ?!」
「ミミズ……まさかとはおもうがそれは…」
高笑いを上げながら燕が叫んだ。
「頭のいい君ならわかるかい?そう…これはさぁ、『最初の僕が作ったミミズ』でしたぁ!いわば僕の…プロトタイプミミズだ!!いけ!!」
グオオオオオ!と叫ぶと、巨大ミミズは討伐隊に向けて拳を振り下ろした。
廊下や壁を破壊し、吹き飛ばされた討伐隊もいた。
「銀!狼!てめぇらは行け!」ジャンが後ろに向かい叫んだ。銀と狼は隙間を塗って、無言で奥へ走っていった。
「さぁて…兄、武市!お前はヒョロチビとデカブツの相手しろ、俺は…わかってんだろ?雉間ぁ…フフフ…ハァッハッハッハ!」
ジャンはすでに木慈を標的にして戦いを始める準備をしていた。
「ん〜、武市はん?」
「どうした、炎」
二人は臨戦態勢に入りながらも、冷静に巨大ミミズを見ていた。
「どう料理しても食われへんで、あのミミズ…」
「ははは、ちげぇねぇや」
二人は至極冷静、いやリラックスしていた。ミミズの前に立つと、一気に鎧を纏った。
余裕綽々な二人に燕は若干気圧されながら
「ほ、ほ、吠え面かくなよぉ…!行け!プロトミミズ!!」
とミミズから降りて、どこかへ行ってしまった。
奥へ走る銀は胸騒ぎを覚えていた。
違和感…アイコの情報が漏れたことや、突如封印が弱くなったことも含めて、もしものときのことを考えていた。
「銀、銀!!」
「ど、どうした!」
銀が狼の声に我にかえると、狼は別の方向の扉の前にいた。
「どうしたはこっちのセリフや!封印はこっちや、お嬢の匂いもするで」
「あ、あぁ、そうか…」
狼は思いっきり銀を殴った。
「しっかりせぇ!!お前が動揺しとったら、この作戦台無しやねんぞ!!わかっとんか!」
頬を抑えながら立ち上がると、銀は狼を蹴り上げた。
「いだ!なにすんねん!」
「すまん、目が冷めた…行くぞ」
何を悩んでたんだ、俺は
やつらに封印解除ができるはずがねぇ、そう絶対にだ。
アレ、を解除しない限り…
屋敷の奥の扉にたどり着いた二人は、ギギギと音を立てながら扉を開けた。
扉を開けると、すでに祝詞が終わって、広橋がアイコの前に佇んでいた。
「…祝詞は終わった。待っていたぞ、現代の結界師よ。」
ゆっくりと振り向く広橋、そして歩き始めた。
「アイコは…」
「あの娘なら眠っている。安心しろ、誰にもなんにもされちゃいない。」
貼り付けにされたアイコ、そしてその影から…鳳 鶯が現れた。
「ふふふ…ふふふふふ…残念だったネ、辺銀…封印の解除はもう目の前ネ!」
次回
第九話・参 −創始−
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