第六話・参 ー集結ー

武市、炎、陸の3人は、銀の店『万事屋村前』の前で感慨にふけっていた。

「なんやろなぁ。前もこんなことあったなぁ。」

「そうだな。長く感じられたが、ほんの一週間ちょっと前とはな…」

ガラガラとドアが開き、銀が出てきた。

「ん?おう来たか。こっちだ。」

銀に連れられ、店の裏側へ移動すると、裏には人が入れるだけの大きさの焼却炉があった。


「さぁ、ここが裏の入り口だ。入れ。」

「いやいや、銀じぃ、煙出てるやん!燃えるやん!」

炎が叫ぶと、あぁ、と焼却炉のドアを開けた。すると中はきれいなエレベーターであった。

「なぁに、煙はカモフラージュだ。とりあえず、ここは街からも死角になるように作っているから、バレる心配もねぇ。さぁみんな待ってる。」

皆がエレベーターに乗ると、自動でぐんっと地下に下降していった。

エレベーターが開くと、そこには近代的な円卓が置かれた会議場になっていた。


「よう、ようやく来たか、坊主ども」

ジャンが椅子でクルクル回りながら待ち構えていた。

「炎、陸…よかった…」

「武市!よく無事に戻った!」

宝治、弾が今にも泣きそうな顔で座っていた。

しかし、そこにはもう一人、見知った顔が酷く苛立った顔で座っていた。

「鉄!来てくれてたんか!」

「え、鉄!?お前どないしたんや!!」

炎が目が飛び出さんかというくらいに驚いた。

「一介の飯屋がなんでこんな所に…」

武市が言うや否や、鉄は立ち上がり、無言で炎を一発殴り飛ばし、武市の胸倉を掴んだ。

「鉄!止めんか!」

「大将、俺ぁコイツらに言わなあかん事がありまんねん!街を助けたい気持ちは俺かて一緒なんや!」

炎や武市が驚くのも無理は無い。作戦には鉄の名前は無かったはずなのだから。


「お前らな、俺かて一応D-HANDSの映絵師の端くれやぞ!みすみすこの街を危険に晒すような真似できるかい!炎、修行やるなんて水臭いやんけ!なんで言うてくれへんのや!陸もそうや!俺はお前らの一番の幼なじみやろうが…俺は役立たずで終わらんぞ!」

鉄は涙ながらに叫ぶと、鉢巻を取り出した。実は鉄は宝治に頼み込んで、D-HANDSでも選りすぐりの愚連隊を結成し、今回の鳳一家討伐隊の一員となったのだ。

「飯屋飯屋言うけどな、俺かてD-HANDSや!妹たちや、自分らの街を守らんで、ぼーっとなんてしてられる奴なんておりまっかいな!おぉ?!」

さすがの武市も鉄の気迫に少したじろいだ。

「おぉ、それはすまねぇ…でもいいのか?」

「何がや」

鉄は震えながら、武市を睨みつけた。

「もしかしたら、志半ばで…」

鉄は武市の肩をグッと掴んだ。

「おう、猫手の二代目…ただで済むなんて微塵も思っとらんわぃ…でもな、最初から死ぬこと考えとるやつが勝てるんか!あぁ!?」

「鉄、もうええ、わかったから…ありがとうな。」

久しぶりの鉄のここぞという時に出す鉄拳を味わい、鉄の覚悟をしかと聞いた炎。落ち着いた炎の言葉に鉄は手をそっと離した。


「気後れしてはいけないな…本当にすまない、鉄さん。あれ?そういえば、今日はこれだけなのか?」

「いや、狼の野郎がまだでな…まぁいい。先に始めるぞ」

銀は呆れながら席について、今後の鳳一家討伐戦の作戦を話し始めた。

まず話にあがったのは、現在の鳳一家の根城と、封印の場所が、近くトンネルで繋がりそうだ…とのことだった。


「……で、最終的には、封印の御紋が使える俺と狼が…にしても遅せぇな、狼の野郎…」

「なら俺が迎えに行ってきますよ。一応…師匠なんで」武市が、すっと立ち上がる。

「あぁ、ちょっと見てきてくれ…ったく…」

皆の呆れる声を聞きながら、様子を見に外へ戻る武市であった。


「どうせあの店で飲みすぎたんだろうな…ほんと何してんだか。」

地上に出ると、銀の店へ向かってヨタヨタと走っている狼の姿が見えた。

「狼さん、遅いですよ!」

「はぁ…はぁ…飲みすぎた…ううっぷ!」

武市は盛大に吐いた狼の背中をさすりながら、持参した水を渡す。

そして狼が落ち着き、裏手に回ろうとしたとき人影が見えた。

「ん?今なんかおったか?」

狼は目を細めて見ていた。

「狼さんもみましたか……誰だ!」

武市が声をかけると、影は慌てた様子で跳ね、壁の向こうに逃げた。壁の向こうに消える姿を見た武市は、それが三毛であると察した。


「っ!!待て!三毛!!」

「なんやと?!おい、一人でいくな!!まぁた走るんかいな……」

三毛を追う武市。狼も散々走っていたにも関わらず、一瞬で頭に血が登った武市を止めるため、走った。


狼は走りながら電話を始めた。

「銀!!三毛の野郎が裏手におったぞ!今追ってる!あとでな!」

銀は電話口で「おい!」と言っていたが、話をしてているうちに、二人が大きく離れていった。

「マジか…俺も年か……いやぁ、まだ負けられへんわい!」


狼が武市に追いついた。立ち止まる武市の前に、一軒の廃屋があった。

「おい、あいつはどこ行ったんや?こん中か?」

「この中に入って行くのは見えたんですが…誘導された感もあるので、狼さんがくるまで待ってました…気配はあります。」

あばら家のような小屋だが、外から覗いても隙間から中の様子は全く見えない。しかし、確実に気配は感じる…それも…

「おぉおぉ、この気配…あいつもおるで…しゃーない、出てこんなら、こっちから入るしかないやろ!」

「えぇ…」


二人はそろりそろりと、ドアを開け中へ侵入した。

中は、外から見た通りに暗闇がひろがっている。微かに見える床には物が散乱しているが、何が飛び出してくるかわからないくらいに闇が満ちている。

すると奥から足音が聞こえ、よく聞き慣れた笑い声が聞こえてきた。

「ふぉっふぉっふぉ…誰かと思ったら、あなた方でしたか。」

「やっぱりおったわ、クソシマシマ野郎が!」

奥から不気味な気配を漂わせた虎が、にやりと笑いながら現れた。


「ん〜?今日はどうされたんですかぁ?坊っちゃん、狼ぅ?」

「虎…てめぇ…」

虎は高笑いをあげると、自分のひげを抜き、矢のように二人へ放った。

とっさに躱す二人が再び虎のほうを見ると、虎はすでに天井からのびた縄梯子に登って逃げようとしていた。

「待てや、くそったれ!」

「虎!てめぇにゃまだ聞きてぇことがある!まて!!」

虎はスルスルと縄梯子を上っていった。

「坊っちゃん、狼…私はあなた方と話すことはございませんよ…あとは頼みましたよ、三毛。」

真っ赤な目を見開き、笑いながら虎は去っていった。

「ん逃がすかぁ!あ痛だ!!!!」

狼は激痛にたまらず声を上げた。痛みの方を見ると、自身の右足に匕首が刺さり、文字通り「足止め」されていた。

「おい…武市気ぃつけろや!!」

狼が匕首を抜いて声をかけると同時に、武市の頬を何かがかすめた。つぅっと流れる血にドクドクと心臓が跳ねた。

「どこ…見てるのかなぁ?」

どこか間延びした声に振り向くと、真っ赤な目がランランと輝いている三毛の姿があった。

「三毛……お前…」

三毛の姿に近づこうとする武市を静止する狼。


「あかん、目ぇ見てみい!虎公もあいつもガンギマリや…『ミミズ』食うてもうてるわ…」

血走った目、溢れ出るよだれ、そして

「あぁ、武市ぃ…やっとお許しがでたぁ…君の相手はぁ、僕だよぉ!!」

匕首を手に飛びかかってくる三毛。そう、凶暴性も増していた。


「三毛!目を覚ませ!!」

必死に三毛の攻撃を凌ぐ武市。

「ヒャハハハ!楽しい!気持ちいぃ〜!武市!遊ぼうよぉ!」

暗闇であろうと、すばしっこく廃屋内を飛び回る三毛。

「三毛……」

武市は変わり果てた三毛に、心を痛める。

「武市!そいつは今、お前の過去のお友達とちゃうぞ!明確な敵になってもうたんや!!」

狼の声に、ピタリと動きが止まる。そして狼へ向けた表情は、本当にこの世の者だろうかというぐらいに、怒りに歪んだ顔だった。

「…うっるさいなぁ、おっさん。邪魔なんだよ。」

そういうと、狼へ数本の匕首を飛ばした。足の痛みで動きが鈍い狼はさすがに目をそむけた。しかし、さらなる痛みに襲われることはなかった。


「三毛…やめろぉ…くっ…」

狼に投げられた匕首は、全て武市が手で受け止め、へし折った。手からはドクドクと血が流れていた。しかし、武市は痛みを堪えながらも冷静であった。

「ヒャハハハハハ!!さすが武市ぃ!」

三毛は拍手をしながら笑みを浮かべていた。

「俺は…まだお前を…今でも親友だと思ってる……だから俺は…全力でてめぇを止める!!」

武市は修行で編み出した風の槍を…三毛の匕首も取り込みながら、するりと作り出した。

「ヒャハハハハ!!やってみなよぉ!!ぶぅちぃ!!!」

三毛は、不気味に歪んだ笑顔で武市へ向かっていった。



次回

第六話・肆 ー親友ー

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