第四話・壱 ー若者ー
宮殿の円卓議場に集められた国中の絵師やアーティスト、そしてD-HANDSと猫手会。
勅命について説明を受けるため、席についていた。テキトー皇帝ジャンが『あ、ちょっと話があったんだ』という鶴の一声で呼び寄せられたのだ。
「以前聞いた通り、鳳一家との件は皇帝からの勅命扱いである。町に蔓延る薬物汚染、大本を絶つのだ。わかりましたか?
皇帝の補佐官・下尾(しもお)がD-HANDS、猫手会に『勅命覚書』を手渡した。
「にゅぷぷぷ、宝治様、弾様も大変でごじゃりますなぁ~」
海洋映絵師会の会長であるタコ族の小太郎、副会長のイカ族の鎗田が言葉をかけた。
「シュッシュッ...英雄ともあろう方が不覚を取られ...あまつさえ武市殿も手も足も出なかったようではないですか…はっきり申し上げて荷が重いのでは?」
「にゅぷぷぷ、あまり言うでない...鳳のチビを食い殺せば良いだけでおじゃろう?だぁれにでもプチっと出来るわいなぁ〜」
小太郎と鎗田の言葉に、宝治も弾も何も言えなかった。
「我々はこの騒ぎの責任があるのはわかっとる。ただ戦力的にはおたくらにも手伝ってもらわんと、勝てへん…」
宝治と弾はほかの映絵師に頭を下げていた。
「おめぇさんら、なんか勘違いしちゃおらんか?」
熊族の鉄筋アーティストである権次(ごんじ)が口を開いた。
「あんのぅ?わすらがここに呼ばれたのは、あくまで『薬物根絶』のために来よるんじゃ。なんでわすらがおめぇらのケンカに手をかさにゃいかんとじゃ?むすろ、映絵師の一派やって聞いて、宿すら追っ払われちゅうくらい迷惑被ってるんじゃがのう!」
至極真っ当な意見に一同は、言い返すことができなかった。すると、ほかの映絵師たちもそうだそうだ、と堰を切るように発言した。そんな中、ひとつ咳払いが響いた。
「一同静まれ。私は協力して事にあたれと申し付けたはずだ。この問題は町、ひいては国を揺るがす一大事である。もし、この勅命に異議がある者は申してみよ。」
と、ジャンは騒ぐ一同を睨みつけた。皇帝の一言に議場はしん、と静まりかえった。
しかし、おもむろに話し始めた者がいた。
「では、我々海洋映絵師会で鳳一家討伐致しますよ。D-HANDSも猫手会も、大人しくしておいていただきましょう。」
淡々と話し始めたのは、イカ族の鎗田だった。
「にゅぷぷぷ、我が会は鳥なんぞには負けんのでのう…以上でよろしいですかな?善は急げ、我々が鳥を全て退治してしんぜよう、にゅぷぷぷぷぷぷ」
そう言いながら、小太郎と鎗田は席を立った。それの後を追うように、権次や他の映絵師は出ていってしまった。
「宝治…」
「なんや…弾ぁ…」
「「あのクソタコ野郎ムカつくな」」
ブー!と吹き出す声が聞こえた、皇帝・ジャンであった。
「おめぇらホントに仲悪いんか?そこまで息あうかね、はっはっはっ!」
合ってねえ!とまた同時に答え、宝治と弾は苦笑いだった。
「でも、多分海の奴らは勝てねぇよ、おい上尾(かみお)、あれ持ってこい」
ジャンの側近のもう片方、上尾が鳳一家の戦力図を持ってきた。そして、そこには虎と三毛の名前、そして
「おい、まてよ……なんでこいつの名前があんだよ、宝治!」
鳳一家の戦力図には、先の襲撃で死んだ、芝の名が載っていた。
「ど、どういうことだ…あいつも繋がってただと?」
「私共の調べによると、芝はミミズの原料である薬剤を染料や塗料という名目で密輸していたという証拠がありました。その証拠には鳳一家長男の燕の名が載っていましたが、先の襲撃で芝、そして証拠は文字通り『消され』てしまいました。芝は罪悪感から、一度鳳一家の取引を反故にしようとしたというのが殺され理由である、と、別件で捕まえた鳥族から供述が取れています」
この事実を聞き、宝治は力が抜けてしまった。
「しかし、1番厄介なのは虎、そして三毛です。特に三毛はこの戦力の中で危険度は高いと考えます。武市様ならよくお分かりかと...」
一同が弾の隣に座る武市に目を向ける。
「まぁ、そうだな...もともとのあいつの能力と併せ持った何か得体のしれない力がある気がする。もっと危惧したほうがいいくらいだが...」
「まぁよい...ではこれで会議は終了とする。宝治、弾、別室でちと話を聞いてもらいたい。よいか?」
「話?ここやったらまずいんか?」
「機密事項である。」
「了解した...武市、先に帰っててくれ」
武市は話を聞きながら頷き、議場を後にし、三人は執務室へ移動した。
弾と宝治に何を話すのか。それは会議が始まる数日前にさかのぼる。
ーーーーー
「よう、ジャン...会議より早く俺になんだってんだ。」
皇帝執務室に現れたのは、辺銀であった。
「いやな、銀...ひとつ、品定めしてもらいたいんだ」
「品定めだぁ?」
訝しげな表情になる銀にコーヒーを出しながら、皇帝は続けた。
「いやな、このあとは映絵師を議場に呼んで、鳳壊滅に使えそうな奴らを選びたいんだわ。こないだの合同葬で勅命出したろ?あれよ、あれ…あれを他の奴らにも送ってさ。」
あぁ、と銀はいうと、納得したように何も書かれていない紙にスッとペンを走らせた。
「お?何書いてんだ?」
「俺が品定めするまでもねぇ。こいつらがいりゃあ、鳳一家の戦力はぶっ潰せるってことだ。」
そこには、海洋映絵師会の小太郎、鎗田、熊族の権次のほか、名だたる映絵師の名があった。しかし、そこには炎、陸、武市の名はなかった。
「あいつら3人はこの作戦に入れたら...まぁ、オブラートに包んで言っても、死ぬだろうな」
「だろうなぁ...」
すると、執務室の電話が鳴る。
「あい、皇帝ちゃん...あぁ、やっと捕まったか、あの野郎...わかった、いや俺のとこに連れてこい、あぁいい、頼んだぜ。」
捕まった、という単語にただならぬ気配があったが、銀は察しがついたのか頷いた。
「奴か」
「あぁ、俺の計画を話したら、逃げちまってな...やっと捕まえたってわけ、無理やりでも参加させてやる...で、俺の計画ってのがよ…」
ジャンはヒソヒソと銀に計画を打ち明けた。
「...ほほう、そいつぁおもしれぇ、だったら、あいつらの名もここに載せられるかもしれねぇな」
皇帝と銀は『計画』の内容について吟味していると、執務室のドアがノックされた。
「入れ~」
「は!失礼いたします、お連れいたしました。」
兵士がドアを開け、ウゾウゾうごめく麻袋を投げ入れた。
「ま、これで役者がそろったってわけ...」
「いや、まだだ、ちょっと聞いてくれ......」
銀の言葉を制した皇帝は、ゆっくりと銀を指さした。そして、含みを持たせて笑うのだった。
ーーーーー
時は戻り議場
「二代目猫友である武市、それと宝治の息子・炎、そして陸。この3人には少し酷かもしれないが、この作戦から外れてもらうことにした。力不足だからな。」
皇帝は立ち上がり、窓の方へ歩いた。
「見てみろよ、外を…子供が遊んでら…あれと一緒だ、奴らはまだガキだ…俺たちみたいに汚れちゃいねぇんだ…いいんだよ、これは未来を繋ぐための戦いだ…」
何時になく深刻そうな表情に、皆緊張を増していた。
「しかし、俺らも英雄だなんだと言われても、やっぱ年だ…しかもお前らは一度負けている身だ…」
弾がぽつりとつぶやいた。
「そう、俺たちは老いた...それはあらがえない…」
皇帝が窓から離れ、円卓に戻ると、封筒を弾に1つ、宝治に2つ放り投げた。
「それは、それぞれのガキにあてた『招待状』だ。炎、陸、武市、やつらには強くなってもらう。何をやるか...わかるな」
「そこからは俺に説明させてくれ。」
ガチャリとドアが開くと、裏で議場を確認していた銀が現れた。
「話がなげぇんだよ、ジャン...つまりは、炎、陸、武市に修行を付けて、戦場に送り出せるように鍛え上げる。まぁ、弾も宝治もわかるだろ、あの修行だ。」
修行、と聞いて、弾も宝治も慌てて立ち上がった。宝治はワナワナと口を震わせ、弾は手足が震わせていた。
「銀、お、お、おどれアホか!今の若者にあんな修行...」
「その通りだ...考え直せ...じ、時間もねぇんだ...」
「俺たちだって、最初はクソ弱かったろ?大丈夫だ、講師陣はこっちでそろえてるから、気にせず、どんと構えておけ、くっくっくっ…」
まるで世界の終わりがきたかのように、弾と宝治は力なく座り込んでしまった。
「はぁっはっはっは!大丈夫だろ、俺らの若ぇときはクリアできたんだ、あいつらだって行ける行けるぅ、はっはっは!」
弾も宝治も怯える修行、若者3名はいかなる修行に送り出されるのか。
次回、第3話・弐 -修行-
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