第三話・壱 ー山道ー
「のぉ、銀よ・・・こんな遠かったかいな」
「まだ俺は手配してもらったカゴだけどよ、それにしても遠くねぇか」
先頭を歩く銀は後ろのご老体2人を確認しながら歩いていた。
「てめぇらは何年も来てねぇからな、ここ。真風山はあと峠1つ越えねぇとないってのによ…」
真風山の登山道を歩く宝治ら一行、先日の会合のあと、虎が銀に連絡を取り、弾の体調が回復したタイミングで封印の確認にきたのだった。
「しかし、鶯が来るとは、わりと只事じゃねぇかも知れねぇな」
「それにしても、狼は一体どこ行きよったんや…誰も連絡取れへんくなるし…」
「まぁ……あいつもこの封印にゃ思う所があるだろうからなぁ……虎が連絡取ったが、ナシのつぶてだったらしい…」
「まぁ、あいつらしいと言えば、それまでやな。」
話しながら登山道を歩いていると石碑に向き合った。そこには『災厄鎮魂碑』と書かれている。
「おじいちゃん、おじいちゃん」
感慨に耽っていると、鳥族の子供がやって来て銀の袖をひっぱっていた。
「おじい…!はぁ…ったく、どうした、坊主?」
銀は子供に尋ねた。
「あのね、こっちの道は崩れちゃったから、おじいちゃんたちに知らせてこいって言われたの」
子供のいう道を見ると、登山道が伸びているはずが土砂と落石で塞がっていた。三人は復旧の様子を眺めていた。
「すいませんね、こっちは当分復旧しませんわ。俺の子供から聞いてませんか」
先ほどしらせてくれた子供はどうやら作業員の子供のようだった。
「いや、聞いている。すまねぇな……眺めているだけではラチがあかないな」
「じゃあどう山を越えたらえぇんや?」
子供は「あっち」と指さす方を見ると、石碑の裏にあまり綺麗ではない別の登山口があった。
「あっちって...こんな道あったかな……」
銀は何度も来てるはずだが、こんな道は見たことはなかった。
「急ごしらえですがね、迂回路ないとと思いまして。登山者も多いので…ここしかないんで、すいません」
「なるほどな...」教えて貰った手前、登らない訳には行かず、三人は歩を進めた。
「......もしもし、3人向かいました。」
ーーーーー
一方、残っている陸のもとへも動きがあった。
三人が真風山へ向かった数時間後…
「陸、入るで」
陸の部屋へ来客があった。ドアが開くと、そこには幼馴染でもある鉄(てつ)がいた。
「なんや、どないしたん、鉄」
「いやな、炎のことで新しいことが分かったんや。宝治様おられへんみたいやから、先に言うとこうと思うて」
鉄は調査隊のリーダーとして、町で聞き込みを続けていた。もちろんそれだけでは何もわからず、自分の居酒屋「風林火山」でも何か情報がないかを探っていたのだ。
「ホンマに!?で、どんな話やの」
「場所も確認してきたんやが、どうも炎が行ってたのはどうも『鳥族の店』らしい」
鳥族、陸は記憶に新しい鳳一家の長で、猫手会で会った鶯のことを思い出し、心がざわめいた。
「鳥族...」
鉄は少し考えてから、話し始めた。
「ただなぁ、その女将さん、炎がぶっ倒れた日には、途中から記憶がなくて気が付いたら朝だった、って言うててなぁ。確かに炎が飲みに来たのは覚えてるみたいなんやが...でな、実はこんなもん拾ったって渡されてな...」鉄は懐から、小さい包み紙を取り出した。
開けると、そこには青い粉薬が少しだけ残っている包み紙だった。紙の端に流しいれたような跡がある。
「この匂い…どこかで…」
陸はどこで匂ったかを思い出し、慌てて飛び出した。
「おい!陸ぅ!!どこ行くねん……」
飛び出した陸は武市を訪ね、もう一度猫手会へ向かっていた。
「俺の考えが正しければ……ごめんください!二代目はいらっしゃいますか!」
ドアが開くと、出てきたのは虎であった。
「おやぁ?陸さんじゃないですかぁ」
「こんにちわ、本日二代目様はおられませんか?今回の件で少しお話したいことが……」
ふふふ、と虎が笑う。
「どの面下げてここに来れるかわかりませんが、武市様なら今日はいませぇん。この間は気まぐれです。猫は気まぐれなんですよぉ?」
と、とげのある言いようで、勢いよくドアを閉められてしまった。
「あ!くそ……この話が正しければ、ちょっと不味いかもしれへんのに……なんか変やったな……でもこれ伝えなあかん!開けてくれ!話だけでも!」
再度ドアをたたくものの、もう反応はなかった。
ーーーーー
再度場所は山へと移る。
案内された「迂回路」を歩きながら、銀ら一行は妙な気配を感じていた。
「んーむ...妙やな…」
「あぁ、虫一匹出て来やしねぇ...なんだぁ?」
銀と宝治はあまりの静けさに周囲を警戒し始めた。
「それに妙な臭いがしよる...どっかで嗅いだことあるんやけどなぁ……」
3人は立ち止まり、周囲を警戒した。すると道の奥の藪がガサガサと揺れ動くのが見えた。藪からは、イノシシであった。イノシシは鬣を逆立て、シューと音を立てていた。
「こいつぁ.....やべぇ、向かってくるぞ!よけろ!!」
突っ込んできたイノシシに3人とカゴ運びは、急いで散り散りに藪に飛び込んだ。しかし、それが罠のはじまりであった。
「ぐあっ!」「ギャッ!!」かごを運んでいた2人が何者かに切られ、倒れたのだ。
「誰だ!!」
2人の死体の影から男が現れた。
「お初にお目にかかります。私、鳳一家の木慈(きじ)と申します。あなた方の足止めを命じられております。まぁ、殺しても構わんと鶯様からの伝言ですが。」
コートの腕にある、のれんのような色とりどりの飾りをなでながら落ち着いた喋りで近づいてきた。
「おーい、木慈ぃ!一応この爺ども、英雄様なんだろぉ?ははっ!つえぇんじゃねぇの?ひゃっはっはっは!」
今度は反対側から岩のような体格の男が宝治を捕らえながら現れた。
「くっ...罠ってことか...なんやコイツ…!動かれへん...離せや!」
「ひゃっはっは!どうだ、犬の爺、やるかぁ?」
闘鶏は宝治の首に絡めている腕に力を込めた。
「ぐっ…ふっ…」
今まで体感したことのない力に、宝治は苦しんだ。
「闘鶏、止めなさい、殺してしまいますよ?」
けっ、と闘鶏と呼ばれた大男は宝治を解き放って、間髪入れず縛り上げた。
「おやおや、皆さん、もう来てたのですねぇ」
3人は、はっとした。イノシシがいた藪の奥から聞こえた声は、ここにはいない男の声だったのだ。
「て...てめぇ...どういうつもりだ!!虎!!!」
そこにいるのは、猫手会で留守を守っているはずの幹部である虎であった。
「御心配には及ばず。屯所には三毛を置いてきておりますゆえ」
「そういうことじゃねぇ!」
鳥族の男2人は捕らえた弾と宝治、銀をじりじりと追い詰めていた。逃げようにも、文字通り『前門の虎』である。不意打ちに何の準備もしていなかった面々は動けずにいた。
「にゃふふふ...信じられないという顔ですねぇ...弾様......すべては猫手会のため、なのですよ...にゃふふふふふ」
ほかの二人も一緒に高笑いをあげた。
「どないなってんねん!弾ぁ!」
「俺にだってわからん!どういうこと...うぐっ...めまいが...」
どこからともなく、呪文と錫杖の音が聞こえ、弾はめまいがして倒れこんでしまった。
「どうなってんだ...と思いでしょう、そうでしょう…元鳳一家の辺銀さん?」
銀の背後に小柄な男と笠をかぶった鳥族がいた。「何...も...もしや燕?!ぐっ!」
「えぇ、お久ぶりですね、銀おじさん...こんな結果になり申し訳ないです。あなたの力はちょっと僕たちの計画の邪魔になので、少しの間消えていてもらいますから。やってください、広橋さん。」
広橋、と呼ばれた男は、錫杖を鳴らし呪文の語気を強めた。
「ぐぅっ!!これは結界...今、広橋って...」
「誰や、広橋て!銀!うぐっ……」
気絶した宝治を見やり、燕はにやりとして、
「最強の結界師、こういえばおじさんはわかりますよね。」
「最強...広橋鋼(ひろはしこう)か...くそ、なんで...奴は即身仏に...」
呪文の効果で弾、宝治、銀の動きが縛られてしまった。
「ふふふふふ...さぁて、闘鶏さん、木慈さん、運んでください。やはり効きますねぇ、旧型のミミズでも...ふふふ」気絶してしまった3人を運び、鳥族と虎は藪の奥に消えていった。
一人後ろから呪文を唱え終わった広橋が眺めていた。目つきは鋭かった。
「......辺銀...久しく見ないうちに老いたな......」
つぶやくと、追いかけるように藪の中に消えていった。
次回 第三話・弐 ー襲撃ー
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