第4話 野良メイドを求めて


 

 朝食を終えた俺はリヴィアと共に部屋を後にした。

 彼女の部屋の規模からしてなんとなく察しは付いていたが、レッドカーペットが敷かれた廊下はとても広く、これだけでもこの館が非常に巨大な面積を保有する豪邸であることが分かる。


 だが、廊下にある全ての窓はなぜか、ルーバーによって閉ざされていた。規則正しく配置されたランプのおかげで暗くはないが、そのせいで強い閉塞感が全体的に漂い、せっかくの圧巻の景色を損ねているように感じる。

 

 「決して私から離れないようにお願いします。先ほど申し上げた通り館内は迷宮となっていますので、たいへん危険です。逸れてしまうと、私たちメイドでも捜索は困難を極めます」

 「分かった」

 「では、参りましょう。まずはメイドの往来が多いエントランスホールに向かうとしましょうか」


 辺りを観察する俺を他所に、早々に予定を決めたリヴィアはさっそく歩き出した。その後に大人しく続いていく。


 壁には金の額縁に収められた絵画や甲冑を用いた壁掛けなどのインテリア、さらに観賞用のテラリウムや高価そうな花瓶などがそこかしこに展示されていて、まるで博物館のようだ。

 それらを眺めながら俺は、リヴィアの背中に質問を投げかける。

 

 「そのエントランスホールまでは遠いのか?」

 「いえ、すぐに着きますよ」

 「そうか。この館、めっちゃ大きいみたいだからかなり歩かないといけないかと思ってたけど、安心したよ。リヴィアの部屋の近くにあるんだな」

 「いえ。実際の距離がどのくらいなのかは存じませんが、エントランスホールは館内の開放区域ですので。私の支配領域から出ればすぐに着きます」

 「ん? どういう意味だ?」

 「レオンハルト様の魔法により、この館の時空が歪められている、ということは前に説明したとおりです。時空とはつまり『時間』と『空間』のこと。この空間の歪みを利用して、メイドは物理的な距離を無視して館内を自由に移動できるのです」

 「つまり……ワープみたいものか?」

 「まあ、そう認識してもらって結構です。実際のところ、部屋は廊下に番号順に並んでいるとされます。そして、他のメイドが担当する部屋の付近はその者の支配下である関係上、このような移動手段がなければメイドは自分の支配地域から出られませんので」

 「確かにな……それで、開放区域ってのは?」

 「誰にも支配されていない、館内の公共設備のことです。これから目指すエントランスホールや食堂、中庭などがそれに当たります」

 「なるほど。誰のものでもないからそこへは行ける、ってことなのか。迷宮って聞いた時はどうかと思ったけど、その点さえ除けばけっこう便利だな」

 「……ここへいらした方々は皆、最初はそのように好意的に解釈します。しかし、すぐにそれが、レオンハルト様がこの館に仕込んだ『呪い』というおりであると理解することになります」

 「呪い……?」

 

 「はい」と答えたリヴィアは足を止め、俺に振り返った。


 「エントランスホールに着く前に、ご主人様に申し上げておきます。そこには外へと繋がる扉……すなわち玄関口があるのですが、決して外に出てはいけません。すでに玄関口は封鎖されており、その心配は無いでしょうが……ちゃんと私の口から伝えておきます。外に出たらもう二度と館内には戻ってこられませんので」

 「館内に戻ってこられない?」

 「そうです。何度も申し上げますが、レオンハルト様の魔法により館内の時空は歪んでいます。故に、外の世界とは隔絶した領域になっており、魔力を持たない者が枠外に出てしまうと、この領域に再度、侵入することは不可能です。館内そのものが通常の時空間とは独立した異空間に存在しているのです」

 「はぁ……なんかよく分からんが、とにかく館から絶対に出ちゃいけないことは分かったよ。……ん? 今、魔力を持たない者が、って言ったな? そしたらキミたちメイドはどうなるんだ? 出入りは自由なのか?」

 「いいえ、不可能です。それどころか、我々メイドが一歩でも外に踏み出せば、その瞬間、完全に消失します。誇張こちょうでもなんでもなく、本当に存在そのものが消えて無くなるのです」

 「なんだと……!」

 

 リヴィアの口から出たまさかの発言に俺は驚愕する。館内の迷宮化に然り、解放に然り、空間の歪みは主人戦争の参加者……つまり俺たち一般人を対象にしたものだと考えていたが……メイドにも制限を課すものなのか? しかも、存在そのものが消えて無くなるなんて……そんなのまさしく呪いじゃないか。

 

 「過去に1人、主人戦争を放棄した主人と協力して館の外への逃避行をくわだてたメイドがいました。仲間たちの抑止を振り切って主人と共に玄関から外へと飛び出し……そして、眩い陽光の中に、彼女は陽炎かげろうのように溶けていきました。主人だけが外に取り残され……その後、彼女の姿を見た者は1人もいません」

 「……どうして元当主はそんな魔法を?」

 「分かりません。私たちを徹底的に管理したかったのか、それとも単に独占したかったのか。もしくは、主人戦争のためか。その理由は定かではありませんが、とにかくメイドが支配するこの館は、同時にメイドを支配するレオンハルト様の檻だったのです。死よりも恐ろしい結末が待っている、と知ったメイドたちは玄関口を封鎖し、さらに外界への憧れを絶つために窓をも完全に封じました」

 「部屋に窓が無かったのも、廊下の窓が全部、固く閉ざされているのも、それが理由か……!」

 「……なので、くれぐれも外へは出ないようにお願いします。それでは参りましょう」


 最後に念押しとばかりに忠言を告げ、リヴィアはきびすを返して歩みを再開させる。


 この館はレオンハルトの檻――静かな、しかし、明確な意思を込めたその言葉に、疑う余地なんて微塵も存在しなかった。

 なぜ、あの爺さんはこの子たちを館に閉じ込めるような真似をしたのか? なんのためにこの館を建てたのか? そこまでしておいて、なぜ当主の座を放棄して俺たちの世界に来たのか? そもそも、彼女たちメイドは何者なのか?


 疑問は湧き水のようにどんどん生まれてくるが、前を歩くメイドの背中にそれをぶつける気にはなれず、黙って後に従った。


 間もなく、陰鬱な空気に満ちた廊下は終わり、開けた空間に俺たちは行き着く。二階へと続く左右の階段の間に設置された男性の像を中心とし、高い天井には豪華なシャンデリア、そして高級品だと一目で分かるきらびやか調度品の数々がそこかしこに飾られている、吹き抜けの大部屋。俺から見て左側に伸びているカーペットの奥には木の板を何重にも打ち付けている部分があり、多分、あそこが玄関なのだろう。ということは、やはりここがエントランスホールか。

 

 「さて、エントランスホールに到着しましたが……おや、さっそく見つけましたね」

 

 ホールを少し歩いて周囲を見回したリヴィアは、俺のために横にズレつつ、右手の方角を手で示した。そっちに顔を向けると、羽根はたきで大きな壺をはたいている1人のメイドがいた。見たところ、俺と同じくらいの年齢か? 長い黒髪にレースを編み込んだヘッドドレス、そしてミニスカートのメイド服を着用した、遠目でもその美貌がよく分かる女の子。

 掃除をしているのか、それとも遊んでいるのか、鼻歌混じりにはたきを指揮棒のように振るい、俺たちがここに現れたことには気付いてないみたいだ。

 

 「ホントだ……エントランスホールにいた。でも、キミのいう……えっと、いわゆる野良メイドってヤツなのか? もうすでに主人がいる可能性は?」

 「あまり考え辛いですね。メイドは何かの命令か事情が無い限り、基本的に主人に側仕そばづかえしているものです。こんな所で、しかも単独で館の清掃なんて、野良以外にありえません。ということで、さっそく声を掛けに行きましょう」

 「ちょ、待て待て待ってくれ」

 

 言うが早いか、メイドの許へ向かおうとするリヴィアを慌てて引き留める。


 「どうしました? 人気の無い廊下に強引に引き戻そうとして。私と夜の主従契約を結びたいのでしたら、まず彼女との契約を済ませた後、お部屋に戻ってからでお願いします」

 

 違うわ。なんだ、夜の主従契約って。

 

 「そんなんじゃなくて……いくらなんでも焦りすぎだろ。メイドを集めないといけないのは分かるけど……それはこっちの都合に過ぎないわけだし。向こうにその気が無くて、攻撃とかしてきたらどうするんだよ?」

 「ああ、そんなことですか。その心配は必要はありません。メイドは本能的に主人の存在を求めているものですから」

 「そうなのか?」

 「ええ。仕えるべき主があっての従者メイドですし……私たちの能力を解放するためにも主人の存在は必須なのです」

 「能力を解放?」


 まぁた新しい情報が出てきたな。

 

 胡乱うろんな目付きになる俺に、「はい」と頷くリヴィア。


 「私たちメイドが魔法を使えることは先ほどお話した通り。しかし、その魔力は常に制限が掛けられており、自分たちだけでは満足に能力を発動できないのです。力を完全に発揮するためには主従契約を果たし、主になった者の許可が必要になります」

 「へえ。メイド側にも主従契約を築くことにメリットがあるってわけか……キミにも何か制限があるのか?」

 「ええ。魔力制限による能力弱体化の内容はメイドによって異なります。魔法の威力や強度であったり、効果範囲であったり、あるいは発動条件が厳しくなったり。私の能力『神の真似事ソウルフル』の場合、操れる物質の重量や規模、数が小さくなります。制限が掛けられている現在はせいぜい、5㎏未満の物体を数個、操るのが限度です」

 「……で、俺が許可? を出すと、その能力が強くなると?」

 「強くなる、ではなく、本来の力を発揮できる、ですね。なので、仮に彼女が襲い掛かってきたとしても、ご主人様がいる私ならまず負けることはありません。ただし、一つご注意を。メイドの魔力解放には、その主の生命力が必要になります」

 「生命力? まさか、命を削る必要があるってのか?」

 「ああ、いえ。ご主人様が危惧するような、たとえば寿命が短くなる……ということではなく、単純に体力のことを指します。しかし、体力を消費し続けると気絶したり、下手すれば命を失う可能性もあるため、えて生命力と表現しました」

 「そういうことか…………ん? 待てよ、主がいないとメイドは本来の力を出せないんだろ? で、あの爺さんは当主の座を放棄して、俺たちの世界に来た……ってことは、ロイヤルナインも能力を制限されているはずだ。それでも、メイドが束になって掛からないと歯が立たないのか?」

 

 リヴィアは言った。ロイヤルナインは主人戦争に関与したがらない、と。それはつまり、彼女たちには仕えるべき主人がいない、ということだ。なぜなら、メイドが主人に従う以上、意思決定はその者に委ねられるんだから。自分の意思を尊重できるのはまだ主人がいない証拠だ。


 さらに、この戦争がまだ終結を迎えてない以上、誰もロイヤルナインを従えていないか、契約したその子が元当主の部屋の場所を知らないか。そのどちらかになる。三頭連合さんとうれんごうとかいう、主人の座を目指して活動しているグループが彼女たちの確保に動かないはずがなく、すでに50人以上もメイドを集めておいて、一度もそのうちの誰かと遭遇したことがない、というのは考え辛いだろう。

 

 つまり、主人がいないのにもかかわらず、ロイヤルナインは本来の力を引き出せるメイドたちが集団で挑んでも、それを退ける力がある、ということだ。


 「ロイヤルナインはメイドの中でも特別な存在なのです。レオンハルト様は館を去る直前、ロイヤルナインの9人の能力を解放してから旅立たれました。その後、主人が不在となったために全てのメイドとの主従契約は解除されたのですが、ロイヤルナインだけは常時、解放状態……つまり、制限なく自分の力を使えるようになっているのです」

 「そういうことか……でも、どうしてロイヤルナインだけに? やっぱり、自分がいなくなった後の館の管理を任せるためか? それとも主人戦争のハードルを上げるため?」

 「どうでしょう……彼の真意は、私には分かりかねます。ですが、異世界へのゲートを開いた上に、特定のメイドの能力を解放するという、魔力と体力を同時に、過剰に消費する荒業あらわざ。その結果、レオンハルト様は魔力を失い、この世界には戻ってこられなくなりました。それだけの覚悟を持って、あの方はこれを実行したのです」

 「動機はともかく、そうせざるを得ない理由があった、ということだな。一体、あの爺さんに何があったんだ……?」

 

 ホールの高い天井を見上げ、俺をここに招いた老人に思いをせる。だけど、記憶障害のせいかその顔すら今やおぼろげだ。

 

 「……とにかく、今は主人戦争を攻略することに専心しましょう。レオンハルト様の真意を探るのはその後からでも遅くはないはずです」

 

 痺れを切らしたようにリヴィアは言い、清掃中のミニスカメイドへ向けて歩き出す。そんな彼女を引き留める理由はもう見当たらず、黙って俺もその背中に続いた。

 

 「そこのあなた、ちょっとよろしいかしら?」

 「ひゃいっ? え? は、はいっ。なんで……ぴゃあっ?」

 

 気付かれないうちに間合いを詰めようとしているのか、足音を殺しながらメイドの背後に近づき、リヴィアは小さく声を掛ける。ビクリと肩を震わせた彼女はゆっくりと振り返り、まずリヴィアを見て、その次に後ろの俺に視線を移して、さらに大きく驚いた。え? そんなに怖いか? 俺。


 「こ、候補様……? ななななんでしゅか? ま、まさか、わたしと主従契約を結ぶおつもりですか?」

 「あら、話が早い。ええ、その通りです。あなたはまだ未契約のメイドでしょう? ならばちょうどいい、我が主のメイドになりなさい」

 「あうあうあう……え、えっと、さ、誘っていただけるのは本当にありがたいんですけどぉ。で、でも、わたしは、あまり戦争に参加するつもりはない、と言いますか……だ、だって、あの人たちと敵対することになっちゃうし……」

 

 自分を守るように体を丸め、ぼそぼそと言い訳染みた独り言を零すミニスカメイド。あの人たち……? 誰のことだ? もしかして三頭連合のことか?

 ああ、そうか。俺のメイドになるってことは、最大勢力であるそいつらとこれから競い合う、ってことになるんだもんな。俺に怯えてるんじゃなく、その闘争に参加したくないのか。なるほど、メイドの中にはこういう日和見ひよりみ派もいるんだなぁ。

 

 「あなたの意見など聞いていません」

 

 仕方ない。無理強いするのも酷だし、彼女は諦めよう。

 

 そうリヴィアに言おうとした矢先である。エプロンの裏側からナイフを取り出した彼女は、素早い動きでミニスカメイドを壁に押し付け、さらに首筋にナイフの刃を押し当てたのだ。

 

 「これは命令です。主従契約を結び、その能力と命を我が主のために使いなさい。それとも、三頭連合よりも先に私がここで始末して差し上げましょうか?」

 「ひいいいぃぃぃっ!!」

 「お、おい! 止めろリヴィア! そんな強引なこと……!」

 

 俺は慌ててリヴィアを止める。だが、彼女はナイフを下ろさず、目だけを向けて俺を制した。


 「お言葉ですが、ご主人様。今は一刻も早く戦力を増強しなければならないのです。あなた様の命を守るためにも、悠長なことなど言ってられません」

 「なに? どういう意味だ?」

 「……この館に新たな主人候補が訪れたことはメイド長、ヘラデリカにより全主人候補にアナウンスされたはずです。それは他の候補にとって、新たな競合相手ライバルが現れたことを意味します。主人戦争の制覇を目指す者からすれば、自分の障害になるものは排除しておきたいと思うのは当然の思考。ならば、いつ仕掛けるべきか? まだ新候補の戦力が整っていない状態。すなわち――っ、危ない!!」

 

 言葉を遮り、叫ぶと同時にリヴィアは俺とミニスカメイドを連れてその場から飛び退く。

 

 

 ――ダダダダダダダンッッ!!

 

 

 次の瞬間、俺たちがいた場所に様々な型の刀剣が降り注ぎ、床に突き刺さった。危ない。リヴィアが動いてくれなかったら3人とも全身串刺しだ。

 

 「な、なんだこれは?!」


 これほどたくさんの剣は一体どこから来たのか? 出処でどころを確かめるために顔を上げれば、二階から俺たちを見下ろす3人組を見つける。左にいるのは露出度の高いフレンチ式のメイド服を着た美女。右にいるのはモノトーン系のメイド服に煌びやかな小物をあしらっている、スチームパンク風の女の子。そして、その間に挟まれているのは、俺より年上らしきガリガリな体格の男だ。


 「サーセン、ご主人。外しちゃいました」

 

 そのうち、左のフレンチメイドが不満げな一言を漏らす。あの口振りからして、この大量の剣は彼女の仕業のようだ。

 

 「あはははぁ。ざーんねん。奇襲作戦、失敗しちゃいましたねぇ。ご主人様?」

 

 すると、今度は左のスチームパンク風メイドが、特徴的なピンクの髪をなびかせながら甘ったるい声で真ん中の男を覗き込む。

 

 「く、くそ……! もうちょっとだったのに……あのメイドのせいで……!」

 「そうですねぇ。完全に不意打ちだったのに、自分だけじゃなくて周りの2人も助けて。あの子、かなり戦い慣れているのかも? やだぁ、もしかして強敵発見~?」

 「はっ、カンケーねーし。どんな相手だろうと2人で挟みゃあフクロだし。やるっしょ? ご主人」

 「あ、ああ! もちろんだ!」

 

 フレンチメイドの問いかけに頷いた細身の男は、手摺子バラスターから身を乗り出し、俺に向かって叫んできた。

 

 「お、おい! お前がヘラデリカが言ってた新しい主人候補だな! さっそく他のメイドを捕まえようとしてたみたいだけど、そうはいかないぞ! そのメイドと、ついでにお前のメイドも、ぼ、ボクがいただいてやる! 行け! お前たち!」

 「あいよー」

 「はーい」

 

 そして男が腕を振るうと、左右のメイドは同時に飛び上がり、俺たちの前に着地した。それからフレンチメイドは、左右の手から出現した両刃のショートソードを握り締め、スチームパンク風メイドは床に突き刺さっている中から一本の剣を抜き取り、それぞれ構える。

 

 「201号室担当、アーミィでっす。2対1でワリーけど、覚悟してな?」

 「334号室担当、エブリウスでーす。お仲間になったら仲良くしましょうね~?」

 

 それが決闘の儀礼ぎれいなのか。自己紹介をした後、2人のメイドの体から、なにか湯気のような空気の揺らめきが立ち上り始めた。

 

 すると、それに呼応するかのように、俺とミニスカメイドを背中に庇うようにして立つリヴィアの周囲にも空気の揺らぎが発生する。アーミィは黄色、エブリウスはピンクなのに対し、リヴィアは青色だ。

 

 「いやあああああ~~~っ!!」


 徐々に高まる、戦いの気運きうん。それに怖気づいたのだろう。俺と同じく、隣でヘタレていたミニスカメイドはいきなり悲鳴を上げながら立ち上がると、俺たちが通ってきた廊下へ駆けていった。

 だが、そのまま闇の向こうに消えていく彼女を、3人のメイドは一瞥いちべつもすることなく、黙して睨み合う。

 

 「ご主人様。魔力解放の許可を」

 

 間も無く、2人に身構えた状態でリヴィアが俺に話しかけてきた。

 

 「あ、ああ。分かった」

 

 何をどうすればいいのか分からないが、とりあえず頷く。その途端、俺の体から急に力が抜けていって、同時にリヴィアから発せられていた青い揺らぎの勢いが増した。これが魔力解放か。

 

 「325号室担当、リヴィアと申します。多勢に無勢、大いに結構。ちょうどいいハンデです。今後、我が主のメイドとして仕えることを踏まえ、先達せんだつである私があなたたちを指導して差し上げましょう」

 「ははっ! 言うじゃん!」

 「エブリウスの主はご主人様だけだもーん。逆にこっちが指導しちゃうもんね~っ! 行っくよー!」


 勝気な笑みを宿らせて、2人のメイドが同時に走り出した。

 

 

 


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