第20話 天啓

今日も陽は眠れないでいた。


頭の中で文春の言葉が繰り返し再生される。


「謝礼って、どのくらい貰えるのかな?」


陽はこれまでスカウトやヘッドハンティングの誘いを受けたことがなかった。


「うちの会社で働きませんか?」


文春のその言葉がとても甘美なものに聞こえた。はじめて世の中に必要とされているような気がした。


陽は文春がどんな仕事についているか知らなかった。しかし、前に文春が「情報を買う」という言い方をしていたし、今回もスクープという単語を使っていた。おそらく週刊誌の記者のような仕事をしているんだろう。


「オレにも務まるかな?」


陽の妄想は止まらなかった。今までの陽だったら世間にインパクトを与えることなど出来るはずがなかった。しかし、今や名前は知られていないもののテレビに取り上げられるトイレットペーパー男なのだ。時の人なのだ。


もし今回の騒動の起点となったブロガーとトイレットペーパー男が組んだら…再び世の中を躍らせることなどわけがないように思えた。


「うーん、マスター…チャーハンおかわり。もちろんネギ抜きで…むにゃむにゃ」


陽の隣では聖が寝言を言っていた。


「いいよな〜聖は…悩みがなくて」


(手取り18万円…プラス謝礼…いや、転職か?週刊誌の記者ってどのくらい貰えるのかな?でも今以上に不規則な仕事は嫌だしな〜)


「金だ、もっとお金がいる…そして聖と…」


深夜までぐるぐると頭を悩ませていた陽だったが、やがて眠りに落ちていた。



(ヨウよ!サランラップを買い占めよ!


いや、やっぱり目薬…


いや、やっぱり亀の子タワシ…


いや、いぶりがっこ…


いや、うーん…


七味唐辛子だ!!七味唐辛子にしよう!!


七味唐辛子を買い占めよ!!)


ガバッ!!


陽は勢いよく体を起こした。


「うーん、どうしたの?ヨウ?」


聖が寝ぼけた様子で聞いてきた。


「聖!!ンバッハブビーン様から天啓が降りたぞ!!七味唐辛子だ!!次は七味唐辛子だっ!!」


「ふーん、ひーちゃんは寝ます。おやすみなさい…」


陽は居てもたってもいられなかった。急いでベッドを出るとパジャマのまま部屋を飛び出した。


そして、203号室のドアをノックした。


ドンドンドン!!

ドンドンドンドンッ!!


「起きてください!!ンバッハブビーン様から天啓が降りました!!」


ドンドンドンドンッ!!


「くそっ!早く起きてくれ!!」


その時だった。


ガチャリ


203号室の玄関ドアが開いた。

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真夜中のトイレットペーパー @kojikista88

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