第19話 誘惑

『トイレットペーパー不足はすっかり解消されましたが、ここに来て騒動の原因が明らかになってきました』


「え!?」

「え!?」


陽と聖は同時に声を出し、テレビに釘付けになった。


『こちらをご覧ください』


ニュースキャスターがそういうと、一枚の画像がテレビ画面に映し出された。


『この画像はあるブログに掲載されたものです。辺りが暗くわかりづらいのですが、この男性は左右の手に3袋ずつ、さらに口に1袋、合計7袋のトイレットペーパーを抱えているのがわかります。


このブログは現在は閲覧出来ませんが、この画像がSNSで拡散され「トイレットペーパー不足がくる」というデマが広がったと見られています』


画像は不鮮明で人物の特定までは出来なかった。しかし、陽にはわかった。


「これ…オレじゃないか!!」


あの日の朝方、必死にトイレットペーパーを運んでいる自分…その姿が今テレビに映し出されていた。


「あ、どこいくの?ヨウ!!?」


陽は聖の声を無視して部屋を飛び出すと、隣の203号室の部屋をノックした。


ドンドンドン!!


ドンドンドンドン!!


ガチャ


「ああ、浅間さん、こんばんは。


先日はエンボス加工のトイレットペーパーをありがとうございました」


「そんなことどうでもいんです。ニュース見ましたか?


あの写真…撮ったのあなたですよね!?」


文春はニヤリと笑った。


「浅間さん、あなたのおかけで初めてスクープを撮ることができましたよ。いやスクープとは違うか?


とにかく、こんなにも世の中にインパクトを与えられるなんて…最高ですよ、快感です!!


いや〜、嬉しいですね〜、ヒーヒヒヒヒッ!!」


陽は驚愕した。まさか今回の騒動を自分と文春が作り出していたとは。


「浅間さん…あなた、うちの会社で働きませんか?何かあなたには才能を感じるんです。


因果関係はさておき、あなたはトイレットペーパー不足の到来をいち早く読んでいた。天才ですよ、誰にでもできることではない。


で、次は何が起こるんです?教えてくださいよ。謝礼、弾みますから。


わかってるんでしょ?」


「ぼ、僕にそんなことできませんよ!!


ただンバッハブ…


いや、なんでもありません。失礼します」


陽は文春の話を遮ると部屋に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る