第17話 エサ

数日後…


「ヨウくん、久しぶり〜」


マンションの駐車場に止めた2tトラックの助手席からカナコが降りてきた。


「もやし、久しぶりだな」


続いて運転席からカナコの兄ノブナガが降りてきた。ノブナガは黄金のジャケットを羽織り、ミラーサングラスをかけていた。


ノブナガは落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回した。それを見て陽は察した。


「聖なら仕事でいませんよ?」


「なっ!?なんだと〜〜〜っ!!?


カナコ、話がちがうではないかっ!!?


せっかく黄金聖衣を着てきたのに…」


カナコはべーっと舌を出した。


「だって、お兄ちゃん、そうでも言わなきゃ手伝ってくれないでしょ?」


「ぐぬぬ、謀ったな!このちんちくりんめっ!!」


トイレットペーパーは全て広末さんが引き取ってくれることになった。


広末さんは京都に住んでいるため運送方法が問題だったが、ちょうどこのタイミングでノブナガとカナコのバンド「スサノオ ・ファイアー・ボール」の京都ライブが決まっていた。そこで広末さんがトラックを手配し、ノブナガとカナコにバイトがてら陽のトイレットペーパーを運んでくれるよう頼んだのだった。


「ノブナガさん、かなぶん…ごめん」


陽は申し訳なさそうに頭を下げた。


「いいのいいの!私たちだって機材運ぶのに2tトラック使えるなんて願ったり叶ったりよ。さ、さっさと積んじゃいましょ」


カナコはそういうと元気よく動き出した。ノブナガは渋々カナコの後を追った。



トイレットペーパーを積み終えるとノブナガとカナコはすぐにトラックに乗った。助手席からカナコが言った。


「じゃ、ヨウくん、私たちもう行くから」


「ノブナガさんもかなぶんも…本当にありがとうございました」


陽はまた2人に頭を下げた。


「ふん、お礼は広末さんに言え!!」


「広末さん、こんなにたくさんのトイレットペーパーを引き取ってくれるなんて…大丈夫なんでしょうか???」


陽は広末さんに無理をさせているのではないかと心配だった。


「ん?聞いてない?


広末さん、ヤギを飼い始めたんだって。しかも8頭も」


「え?ヤギ???じゃ、これ、ヤギの餌ってこと?」


「カーッカッカッカ!!


もやし、心配するな。広末さんに任せておけば大丈夫だ。お前とは器がちがうからな」


「あ、そうだ」


カナコはそういうとバッグから封筒を取り出し陽に手渡した。


「なにこれ?」


「広末さんから立て替えておいてくれって。トイレットペーパー代…いや、エサ代かな?」


「え?そんな…受け取れないよ」


「ええい!いいから受け取っておけ!!」


「お兄ちゃんのお金じゃないじゃろ?


ヨウくん、ここは甘えておきなさいよ。


ひーちゃんによろしくね、愛してるって伝えといて。じゃ、またね〜」


そういうとノブナガとカナコは嵐のように去っていった。


陽はカナコに渡された封筒の中身を見た。封筒の中には1万円札が5枚入っていた。


「広末さん、どんだけカッコいいんだよ…」


陽はポケットからスマホを取り出し、広末さんに電話をかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る