第14話 総理

「いったいこれ…どんだけ税金取られるんだ?」


陽は積み上げられたトイレットペーパーを虚な目で眺めた。


テレビでは法律が施行される前にトイレットペーパーを手放そうとする人が続出していると報道していた。


陽がスマホでオークションサイトを見ると、たくさんのトイレットペーパーがただ同然の値段で出品されていた。しかし、そのほとんどは貰い手がつかないでいた。トイレットペーパー課税法案の効果は抜群だった。


今となっては文春にエンボス加工を渡したのは小さな幸運のように思えた。


「落ち着け、何か手があるはずだ」


陽は自分に言い聞かせるように呟いた。


「聖…」


「ん?なに?」


聖は心配そうに返事をした。


「このトイレットペーパーのこと…言わなければわからないんじゃないか?」


聖は不安そうな表情で答えた。


「でも、それって…わたしそういうことわからないけど、所得隠しみたいなことになるんじゃない?脱税みたいな?」


「いや、でも黙っていれば…」


そう言いかけて、陽の頭に1人の男の顔が浮かんだ。


「ふ、文春…」


陽はトイレットペーパーを買い占めている姿を文春に見られている。もし文春が垂れ込んだら…。


「くそっ!!


ンバッハブビーン様!!お願いです、助けてください!!


何か言ってください、ンバッハブビーン様…」


陽は祈るような気持ちで天を仰いだ。


付けっぱなしにしていたテレビでは、総理大臣の記者会見が始まった。


1人の女性記者が総理大臣に質問した。


「総理っ!!この法案を主導したのは総理自身とお聞きしましたが本当ですか?


ちゃんと専門家に相談したのですか?


1人1袋の数字の根拠はなんですか?トイレットペーパーの使用量はそれぞれ異なりますよ。そんなこと小学生でもわかります。


わたしと総理のうん…その、排泄物の量も形も色も臭いも異なるでしょう?完全に個人の人権を無視した時代遅れの法案ですよ、これはっ!?


トイレットペーパーの予備は1袋じゃなきゃいけないんですか?2袋じゃダメなんですか?


総理、お答えください!!」


総理大臣はうんざりした様子で言った。


「意味のないクエスチョンだよ…」

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