第13話 一転

陽がテーブルの食器をさげはじめると、聖はカナコと電話をしたまま右手でごめんと合図を送ってきた。


陽は2人分の食器とフライパンを手早く洗った。食器を洗い終えても、聖はまだ電話でカナコと話していた。


「あ、かなぶん!!そう言えばは…トイレットペーパーの在庫ある?うち、いっぱいあってさ。困ってたら譲るけど」


「え?トイレットペーパー?もしかしてひーちゃん、まだニュース見てないの?」


「え?ニュース???」


それを聞いた陽は、リモコンでテレビのスイッチを入れた。


『先程ホームランを打った選手はジョージ・マッケンジー選手ではなく、城島ケンジ選手でした。訂正してお詫びいたします』


テレビにはニュースキャスターが頭を下げる姿が映し出されていた。


「また、謝ってるよ…」


『さて、先程からお伝えしております、トイレットペーパー課税法案についてですが…』


「トイレットペーパー課税法案???」


陽は怪訝な顔をしてニュースキャスターの次の言葉を待った。


「繰り返しお伝えしております通り、トイレットペーパーの過度な買い占めを規制するため、内閣がトイレットペーパー課税法案を国会に提出しました」


「えっ!?」


陽は思わず声を上げた。


トイレットペーパー課税法案の主な内容は次の通りだった。


トイレットペーパーの保有は1名につき1袋(12ロール)までとすること。それ以上の数を保有する場合は、シングル1ロールにつき50円、ダブル80円、エンボス加工200円、保湿タイプ250円の税金が課せられる。


陽は血の気が引くのがわかった。そして部屋中に積み上げられたトイレットペーパーを見回した。


「ひーちゃん、おーい、大丈夫?」


聖のスマホの向こうではカナコが大声を上げていた。


「ごめん、かなぶん。また連絡する」


「えっ、どした…」


ピロリン


聖は電話を切った。

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