第7話 バスタブ

数日後…


メディアに不安を煽られた人々は平静ではいられなかった。トイレットペーパーの買い占めが横行し、町はトイレットペーパー難民であふれていた。


テレビでは「在庫は充分ある」と報道していたが、ブームのように作り出された特需はその供給量を遥かに上まり、数日経過したのちも落ち着く様子はなかった。



今日は陽も聖も休みだった。共働きの2人の休みが合う日は意外と少ない。


「今日はいいお天気ねー。絶好の洗濯日和だわー」


聖は朝から洗濯機を回してご機嫌だった。一方、陽はリビングのトイレットペーパーをせっせと運んでいた。


「ヨウ、さっきから何やってるの?」


「うーん、もう少ししたら教える」


陽は聖の声を遮り作業を続けた。



「聖〜〜、ちょっと来て!!」


陽は聖を浴室に呼んだ。すぐに聖がやってきた。目の前の光景を見た聖が言った。


「へ?なにこれ?」


バスタブの中はトイレットペーパーで埋め尽くされていた。


「ヨウ、なにやってるの?」


「聖、絶対シャワー出すなよ。トイレットペーパー溶けちゃうから。


はい、これ」


陽は質問には答えず、スマホを聖に渡すと上半身裸になった。


「なにしてるの?」


陽はバスタブに入り、ゆっくりと肩までトイレットペーパーにつかった。


「ふう〜」


気持ちよさそうに深いため息をつくと、両腕をバスタブの淵に乗せた。そして、聖に目を向けた。


「さ、聖。写真を撮ってくれ。


トイレットペーパー不足のご時世に、トイレットペーパーの湯船につかるオレ。


めっちゃインスタ映えするだろ?

大富豪感、出てるだろ?」


「・・・・ヨウ、あなた、大丈夫?」


聖が心配そうな顔をして言った。


「ん?何が?大丈夫だけど?


あ、足も少し出した方がいいってこと?


あ、靴下履いてるからやっぱり足は出さないどこ。不自然だろ?


よし!聖、頼む」


「本当に大丈夫なの…」


パシャ


聖は陽がトイレットペーパーの湯船に浸かる自称大富豪な姿をスマホにおさめた。

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