第3話 プリンセスホテル

「いただきまーす」

「いただきまーす」


陽と聖はテーブルを挟んで向かい合っていた。なんとなくつけたままのテレビではニュースキャスターが謝っていた。


『正しくは馬ではなくロバでした。お詫びして訂正いたします』


それを聞いた陽が言った。


「また間違えたのか〜〜。この番組、ちょいちょい謝ってるよな。前にミミズクとフクロウ間違えてたよな?」


「んー、そんなこともあったね」


聖は興味なさそうに答えた。


「今日の仕事、どうだった?」


「特段なにもなかったよ。ところで、ヨウ…」


「ん?なに?」


聖は言いにくそうに続けた。


「この部屋のトイレットペーパー…


なんとかならないの?」


陽はその言葉に少し動揺した。


「な、なんとかって!?


これからトイレットペーパー大恐慌がくるんだぞ!?


これでも足りないくらいさ」


聖は部屋を見渡した。壁側にびっしりとトイレットペーパーが積み上げられていた。


「そんなニュース、どこでもやってないけど?」


「当たり前だよ!!これからやってくるんだから!!


ひ、聖っ、おまえ…


ンバッハブビーン様を信じないのか?」


「まぁ、ヨウのやりたいことには反対しませんけど。部屋中真っ白で落ち着かないよ」


「いや、ほら、バリの高級リゾートに来たと思えばいいんだよ!!


きっとこんな感じだと思うよ。行ったことないけど」


聖はその言葉を無視して言った。


「ね、これはなんなの?」


聖はリビングの真ん中に積み上げられた円筒型のトイレットペーパーを指さした。


「こ、これは…


これは、新横浜プリンセスホテルさ。


オレ、結婚式は…」


そう言って陽は口をつぐんだ。


「ふーん…


なんでもいいけど、隅に寄せてくれない?


邪魔だよ、プリンセスホテル。倒しちゃうよ」

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