第2話 エンボス加工の溝
数日後…
「じゃ、行ってきまーす!」
仕事に向かう聖の元気な声が聞こえた。
「うーん、いってら〜〜」
陽はベッドの中から寝ぼけた声で返事をした。今日は休みだ…まだゆっくり眠っていたい。
どのくらい時間が経っただろう?陽は観念したようにベッドから出るとトイレに向かった。
用を足し、トイレットペーパーに手を伸ばした時のことだった。
「な、なんてことだっ!!」
ホルダーにセットされているトイレットペーパーにはバラの絵がプリントされていた。陽は恐る恐るトイレットペーパーに触れてみた。
「違う、いつも使っているシングルタイプとは…明らかに手触りが違う!!さすがエンボス加工」
先日、トイレットペーパーを買い出しに行った際、安価な商品がなくなり、清水の舞台から飛び降りるつもりで購入したのがこのトイレットペーパーだった。
「聖のやつ、これ使ったんだな…なんて贅沢な…」
陽の中に小さな怒りが込み上げてきた。
(でも、これ使ったら…きっと気持ちいいんだろうな…
いや、ダメだ!!オレの給料、手取りで18万円だぞ!!)
陽は思いを押し殺し、エンボス加工のトイレットペーパーを取り外した。
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お尻を拭き、トイレを出ようとしたところで陽は足を止めた。
(ケチくさいヤツと思われて別れ話にでもなったら大変だもんな…)
陽は再びホルダーにエンボス加工のトイレットペーパーを取り付けた。そして深いため息をついた。
(今後、聖と結婚した場合…この価値観の溝は埋まるんだろうか…)
陽は憂鬱な気持ちになっていた。
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